8.感染症

スピラマイシンの作用機序【先天性トキソプラズマ症】

先天性トキソプラズマ症の発症抑制」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品のスピラマイシン錠150万単位「サノフィ」(一般名:スピラマイシン)2018年7月2日に承認されました。

 

これまで同疾患に対して適応を有する薬剤が無く、国内では初の承認となります!

今回は先天性トキソプラズマ症とスピラマイシン錠の作用機序についてご紹介します。

 

先天性トキソプラズマ症とは

トキソプラズマは三日月形をした原虫(寄生性原生生物)に分類されています。

トキソプラズマ症は、過熱不十分な食肉洗浄不十分な野菜猫の糞便などを介してトキソプラズマが経口的に体内に侵入することで発症します。

 

健常な成人が感染した場合、ほとんどは無症状で、症状があったとしても風邪のような症状のため、数週間で回復します。

 

しかし、妊娠中の女性がトキソプラズマに感染した場合、胎盤を通じて胎児に感染してしまう先天性トキソプラズマ症の危険性があります!!

トキソプラズマは猫の糞便中に存在することが多いため、妊婦さんは猫の糞便処理等を行わないことが望ましいとされています。

 

ちなみに、全ての猫が危険ではなく、「トキソプラズマに感染して2週間以内の猫」が一番危険です。

それ以外の時期の猫はトキソプラズマの感染力がないため、特に危険性はありません。

 

先天性トキソプラズマ症の症状と治療薬

先天性トキソプラズマ症の重症度は妊娠初期ほど高いとされています。

最悪の場合、死産や流産の可能性がありますが、無事に産まれたとしても以下のような重篤な症状が残ってしまう危険性があります。

  • 水頭症
  • 脈絡膜炎による視力障害
  • 脳内石灰化
  • 精神運動機能障害

 

また、出生時には無症状であっても、成人になるまでに網脈絡膜炎や神経症状(てんかん様発作、痙攣など)等が発現してくることもあります。

 

海外ではトキソプラズマの感染が確認された妊婦に対してはマクロライド系抗菌薬のスピラマイシンの投与が推奨されています。

しかし、国内ではこれまでにトキソプラズマの適応を有する薬剤は無かったため、適応外でアセチルスピラマイシン錠が投与されていました。

 

今回ご紹介するスピラマイシン錠は先天性トキソプラズマ症に対して初の国内適応を有する薬剤です!

 

スピラマイシン錠の作用機序

トキソプラズマの細胞内には「アピコプラスト」と呼ばれる4重膜構造を有する器官が存在しています。

アピコプラストはトキソプラズマの生存にとっては必須の器官で、アピコプラスト内に存在するリボソーム(アピコプラストリボソーム)でタンパク質合成を行っていると考えられています。

 

スピラマイシンの明確な作用機序は不明とされていますが、トキソプラズマのアピコプラストリボソームに特異的に結合してその働きを抑制することで、タンパク質合成を阻害し、増殖抑制効果が得られると考えられます。

その他にも、スピラマイシンは白血球の殺菌活性の増強作用など、リボソームを介さない機序によって抗トキソプラズマ活性を発揮する可能性も考えられています。

 

このようにスピラマイシンはマクロライド系抗菌薬に分類されていますが、細菌だけでなくトキソプラズマにも効果が認められています。

 

スピラマイシン錠の用法・用量

通常、妊婦には1回2錠(スピラマイシンとして300万国際単位)を1日3回経口投与します。

 

スピラマイシン錠の薬価

薬価収載時点(2018年8月29日)の薬価は以下の通りです。

  • スピラマイシン錠150万単位「サノフィ」:224.60円

 

新規作用機序のため有用性加算(Ⅱ)が10%、希少疾病用医薬品のため市場性加算(Ⅰ)が10%加算されており、根拠は以下の通りです。

  • 国内外のガイドラインで標準治療に位置づけられているため

 

算定方式等は以下の記事をご覧ください。

>>【新薬:薬価収載】9製品(2018年8月29日)と用法用量変化再算定

 

あとがき

これまで先天性トキソプラズマ症に対して適応を有する薬剤はなく、適応外でアセチルスピラマイシン錠が投与されていたり、個人輸入による投薬も行われていました。

今回スピラマイシン錠が先天性トキソプラズマ症の適応を有したことから、保険適応内での治療が可能となります!

 

先天性トキソプラズマ症は産まれてくる子供にとって、非常に重篤な疾患です。

患者さんにとっては、海外でも推奨されている根拠のある治療薬の選択肢ができたことから朗報ではないでしょうか。

 

以上、今回は先天性トキソプラズマ症とスピラマイシン錠の作用機序についてご紹介しました☆

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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