6.腎・泌尿器系 12.悪性腫瘍

ヴォトリエント(パゾパニブ)の作用機序と副作用【腎細胞がん】

2014年3月、ヴォトリエント錠200mg(一般名:パゾパニブ)に「根治切除不能又は転移性の腎細胞がん」の適応が追加されました。

 

今回は腎細胞がんとヴォトリエント(パゾパニブ)の作用機序についてご紹介します。

 

腎臓とは

腎臓は、ちょうど背骨の両側の、腰の高さのところに左右1つずつある臓器で、大きさは握りこぶしくらいのソラマメのような形をしています。

 

主な働きはご存知の通り、原尿の生成です。

原尿は「腎実質」と呼ばれる部位で血液を濾過(糸球体で濾過される)して生成されます。

その後、原尿は腎盂に集められた後に、尿管、膀胱を通っていきます。

 

腎細胞がんと治療薬

腎臓の中でも、腎実質の細胞から発生するのが腎細胞がんです。

腎細胞がんは初期では手術で取り除くことが可能ですが、肝臓や他臓器に転移が認められる場合、手術で取り除くことが困難になります。

 

一般的に、他の臓器のがんでは、手術により切除できない場合や他の臓器に転移が見られた場合には、抗がん剤による化学療法が行われます。

 

しかし、腎細胞がんの場合、これまでの抗がん剤ではがんに対する感受性が低く、一般的に化学療法が行われることはありませんでした。

かつて、薬物治療として唯一行われてきたのが、インターフェロンα(IFN-α)製剤やインターロイキン2(IL-2)製剤を用いたサイトカイン療法でした。

 

その後、分子標的治療薬として以下の薬剤が登場し、現在ではこれらの薬剤が一次治療の中心です。

 

これら薬剤の使い分けですが、下記のIMDCリスク分類(低・中・高リスク)による使い分けがよく行われています。

予後予測の6因子 何項目当てはまるか
0個 1-2個 3個以上
  1. 初診から治療開始まで1年未満
  2. 全身状態(KPS)が80%未満
  3. 貧血
  4. 補正カルシウム値の上昇
  5. 好中球数増加
  6. 血小板数増加
低リスク 中リスク 高リスク

 

今回紹介するヴォトリエントは低・中リスクの一次治療からよく用いられている薬剤です。

 

腎細胞がんの血管新生と増殖機構

がん全般的に言えることですが、がん細胞が大きくなるためには多くの栄養素や酸素が必要となります。

そこでがん細胞は、自分のところに血管を無理やり作らせようとし、それに関与する因子として、がん細胞はVEGF(血管内皮細胞増殖因子)PDGF(血小板由来成長因子)などを放出することが知られています。

 

これらの因子が、血管のVEGF受容体(VEGFR)PDGF受容体(PDGFR)に結合すると、がん細胞に対して異常な血管が作られ(これを“血管新生”といいます)、この血管を通じてがん細胞は大量の栄養と酸素を得ることができます。

そうすることでがん細胞はどんどんと成長し、他臓器へ転移もしやすくなってしまいます。

 

また、がん細胞の細胞膜にはしばしばc-Kit(“シーキット”と読みます)PDGF受容体(PDGFR)が存在しています。

これらc-KitやPDGFRからのシグナル伝達が、がん細胞の核内に到達すると、がん細胞の増殖が活性化されます。

 

ヴォトリエント(一般名:パゾパニブ)の作用機序

ヴォトリエントはVEGFR、PDGFR、c-Kitを特異的に阻害するマルチキナーゼ阻害薬です。

がんの血管新生に関与しているVEGFRPDGFRを阻害することで、がんの血管新生が抑制され、がんの成長を抑制することができます。

 

また、がん細胞のc-KitPDGFRを阻害することで、シグナル伝達が阻害され、がんの増殖活性を抑制することができます。

 

このようにヴォトリエントは、がん細胞の増殖に関与する様々な受容体を阻害する作用機序によって、がん細胞の増殖・成長・活性化を抑制します。

 

エビデンス紹介:COMPARZ試験

根拠となった臨床試験を一つご紹介します。

本試験は、進行性または転移性腎細胞がんに対する全身治療歴のない患者さんを対象に、スーテントとヴォトリエントを直接比較する第Ⅲ相臨床試験です。1)

 

主要評価項目は「無増悪生存期間」で、非劣性を検討した試験です。

試験群 スーテント ヴォトリエント
無増悪生存期間中央値 9.5か月 8.4か月
HR=1.05、非劣性が証明
奏効率 25% 31%
p=0.03

 

本試験の結果、ヴォトリエントはスーテントと同程度の有効性であることが示されました。

 

1)COMPARZ試験:N Engl J Med. 2013 Aug 22;369(8):722-31.

 

ヴォトリエント錠の副作用

主な副作用として、下痢、高血圧、疲労、肝機能障害、悪心・嘔吐、毛髪変色、食欲減退、味覚異常、手掌・足底発赤知覚不全症候群などが報告されています。

 

ヴォトリエント錠の用法・用量

1日1回800mgを食事の1時間以上前または食後2時間以降に経口投与します。

 

あとがき

腎細胞がんに使用する薬剤はこれまで限られていたことから、新たな治療選択肢が登場したことは朗報かと思います。

 

腎細胞がんでは今後も様々な治療薬の開発が期待されています。

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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