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2020年9月25日、エンハーツ(トラスツズマブ デルクステカン)の「HER2陽性胃がん」に対する適応拡大が承認されました!
第一三共|ニュースリリース
基本情報
製品名 | エンハーツ点滴静注用100mg |
一般名 | トラスツズマブ デルクステカン |
製品名の由来 | 治療アウトカムを高める(Enhance)ことへの願いとHER2 を標的とする作用機序に由来する。 |
製薬会社 | 第一三共(株) |
効能・効果 | ●化学療法歴のあるHER2陽性の手術不能又は再発乳がん(標準的な治療が困難な場合に限る) ●がん化学療法後に増悪したHER2陽性の治癒切除不能な進行・再発の胃がん |
用法・用量 | 記事内参照 |
収載時の薬価 | 165,074円 |
エンハーツは2020年3月25日に「HER2陽性の手術不能又は再発乳がん」を対象疾患として承認された新薬で、ハーセプチン(一般名:トラスツズマブ)に抗がん剤のデルクステカンを結合させた構造を有しています。
また、条件付き早期承認制度の指定を受けていますので、
- ローブレナ(ロルラチニブ):ALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺がん
- キイトルーダ(ペムブロリズマブ):MSI-Highの固形がん
に次いで3製品目となりました。
2020年3月25日に同日承認されたビルテプソ(ビルトラルセン)と同着の3製品目
-
ビルテプソ(ビルトラルセン)の作用機序【筋ジストロフィー】
続きを見る
なお、HER2陽性胃がんについては「先駆け審査指定制度」に指定されていますね。
今回は乳がん・胃がん治療とエンハーツ(トラスツズマブ デルクステカン)の作用機序、エビデンスについてご紹介します。
目次(クリック可)
乳がんの概要
2011年の女性乳がんの罹患数は、約72,500人と、女性のがんの中では最も多く、約20%を占めると言われています。
手術で取り切れるような早期の乳がんでは、5年生存率は80%を超えます(StageⅠ~Ⅱでは90%を超える)ので、治癒することが可能な比較的予後の良いがんとして知られています。
ただし、発見時に手術ができない(手術不能)の乳がんや、再発した乳がんでは5年生存率は30%と、治癒を見込むのは難しくなってしまいます(基本的には延命)。
従って、日頃の観察やがん検診(マンモグラフィや超音波検査)によって、できるだけ早期に発見することが非常に重要です!!!
また、乳がんの発生には女性ホルモンのエストロゲンが深く関わっていることが知られています。
その他、乳がんの15%~25%は「HER2」と呼ばれるタンパク質が細胞膜に発現していることもあり、従来は予後不良と言われていました。
早期の乳がんの治療
早期の乳がんは基本的には手術によって完全に取り除くことが可能です。
早期乳がんの中でも術後に再発リスクが高いと診断された患者さんでは、術後にホルモン療法や抗がん剤によって再発を抑える薬物療法(初期治療)が行われることがあります。
乳がんは、がん細胞の性質によって、術後の初期治療が異なります。
- ホルモン陽性の乳がん:ホルモン療法(タモキシフェンやアロマターゼ阻害薬)
- HER2陽性の乳がん:パージェタ(ペルツズマブ)+ハーセプチン(トラスツズマブ)±抗がん剤
- ホルモンもHER2も陰性の乳がん:抗がん剤
HER2陽性の場合、ハーセプチン+抗がん剤(主にタキサン系)にパージェタが併用されることもあります。詳しくは以下の記事をご覧ください。
-
パージェタ(ペルツズマブ)の作用機序と副作用【乳がん】
続きを見る
転移のある乳がんの治療(手術不能)
発見時に転移がある乳がんの場合、手術はできませんので、薬物療法(ホルモン療法、抗がん剤、分子標的薬)が基本となります。
転移のある乳がんの場合も、がん細胞の性質によって薬物療法の種類が異なります。
- ホルモン陽性の乳がん:ホルモン療法±CDK4/6阻害薬
- HER2陽性の乳がん:ハーセプチン±パージェタ±抗がん剤
- ホルモンもHER2も陰性の乳がん(トリプルネガティブ乳がん):抗がん剤
最も多いとされるのが、「①ホルモン陽性の乳がん」で、この場合はホルモン療法が基本です。
ホルモン陽性の乳がんに対しては
といったCDK4/6阻害薬が使用できます。両薬剤の比較表については以下の記事で解説しています。
-
ベージニオ(アベマシクリブ)の作用機序:イブランスとの違い/比較【乳がん】
続きを見る
「②HER2陽性の乳がん」の場合にはパージェタやハーセプチンが使用でき、効かなくなった場合、二次治療としてカドサイラ点滴静注用(一般名:トラスツズマブ エムタンシン)を使用します。
しかし、カドサイラが効かなくなった後、三次治療として有効な薬剤はありませんでした。
なお、「③ホルモンもHER2も陰性の乳がん(トリプルネガティブ乳がん)」の場合、抗がん剤が基本ですが、PD-L1が陽性の場合にはテセントリク(一般名:アテゾリズマブ)が使用可能です。
-
テセントリク(アテゾリズマブ)の作用機序【肺がん/乳がん/肝がん】
続きを見る
胃がんの概要・治療
胃がんの治療は発見時のStageによって異なります。
最近では胃がん検診受診率の向上により、より早期で発見できることが多いとされています。
発見時に遠隔臓器に転移がある場合(StageⅣ)や、再発した胃がんの場合、手術によって取り除くことができないため、抗がん剤併用(化学療法)による治療が原則です。
StageⅣや再発の胃がんの場合、乳がんと同様に約20%はHER2受容体が発現していることが知られています。
HER2が陽性の場合、HER2を阻害するハーセプチン(一般名:トラスツズマブ)を併用した以下のような化学療法が行われます。
- XP(カペシタビン+シスプラチン)+トラスツズマブ
- SP(S-1+シスプラチン)+トラスツズマブ
- SOX(S-1+オキサリプラチン)+トラスツズマブ
- XELOX(カペシタビン+オキサリプラチン)+トラスツズマブ
ハーセプチンの作用機序については以下の記事をご確認ください。
-
ハーセプチン(トラスツズマブ)の作用機序と副作用【胃がん】
続きを見る
一方、HER2が陰性の場合、以下のような化学療法が行われます。
- SOX(S-1+オキサリプラチン)
- SP(S-1+シスプラチン)
- DS(S-1+ドセタキセル)
- XP(カペシタビン+シスプラチン)
- XELOX(カペシタビン+オキサリプラチン)
- FOLFOX(オキサリプラチン+5-FU+レボホリナート)
上記の初回治療(一次化学療法)で増悪が認められた場合、二次治療としてはタキソール+サイラムザ(一般名:ラムシルマブ)による併用療法が行われます。
-
サイラムザ(ラムシルマブ)の作用機序【胃/大腸/肝細胞/肺がん】
続きを見る
二次治療で増悪した場合、三次治療として
がありますが、まだまだ治療選択肢が限られています。
エンハーツ(トラスツズマブ デルクステカン)の構造・作用機序・特徴
エンハーツはHER2を特異的に認識する抗体医薬品のハーセプチン(トラスツズマブ )に、抗がん剤のデルクステカンを結合させた構造を有しています。
ハーセプチンについては、胃がんの解説記事ですが以下で紹介しています。
-
ハーセプチン(トラスツズマブ)の作用機序と副作用【胃がん】
続きを見る
このように抗体医薬品と抗がん剤を結合させた医薬品を「ADC(Antibody Drug Conjugate:抗体薬物複合体)」と呼んでいて、以下の薬剤が既に承認・販売されていますね。
- マイロターグ(一般名:ゲムツズマブ オゾガマイシン):造血器腫瘍
- カドサイラ(一般名:トラスツズマブ エムタンシン):乳がん
- アドセトリス(一般名:ブレンツキシマブ ベドチン):造血器腫瘍
- ベスポンサ(一般名:イノツズマブオゾガマイシン):造血器腫瘍
エンハーツは乳がん細胞のHER2を認識して結合した後、細胞質内に侵入していきます。
がん細胞の細胞内には「カテプシン」と呼ばれる物質が高発現していて、それによってリンカーが切断されてデルクステカンが遊離します。
デルクステカンはトポイソメラーゼⅠを阻害する抗がん剤で、作用機序としてはカンプト/トポテシン(一般名:イリノテカン)と同じですね。
がん細胞のDNA複製時には、DNAのねじれ(超らせん構造)を解消させるため、トポイソメラーゼⅠによってDNAの一本鎖が切断されますが、これが阻害されるため、がん細胞の増殖が抑制されるといった作用機序です。以下の記事で少し詳しく解説していますのでご覧ください。
-
オニバイド(イリノテカン リポソーム製剤)の作用機序【膵臓がん】
続きを見る
なお、デルクステカンの抗腫瘍活性はイリノテカンの約10倍とのデータもあります。1-2)
これまでのADCと比較してエンハーツは
- 通常、抗体1分子に対してペイロード(薬物)は2~3個だが、トラスツズマブ デルクステカンは7~8個の薬物が結合可能
- リンカーとペイロードとの結合が血中で外れにくい
- がん細胞の中で特異的にリンカーが切断されるため、正常細胞に影響を及ぼしにくい
といった特徴があります。1)
その他にもデルクステカンは細胞膜の透過性が高いため、周囲のがん細胞にも効果が及ぶようです。
乳がんのエビデンス紹介:DESTINY-Breast01
根拠となった臨床試験は、カドサイラの治療を受けたHER2陽性の再発・転移性乳がん患者さんを対象にエンハーツ単剤を投与した国際共同第Ⅱ相試験のDESTINY-Breast01試験です。3)
以前の治療数中央値は6治療でしたが、有効性は以下の結果が得られています。(主要評価項目は「奏効率」)
- 奏効率*:60.9% (95% CI, 53.4 to 68.0)
- 無増悪生存期間†中央値:16.4か月
- 生存期間中央値:未到達(6か月時点の生存率:93.9%、12か月時点の生存率:86.2%)
*奏効率:がんが30%以上縮小した患者さんの割合
†無増悪生存期間:薬を投与してから、がんが大きく(増大)するまでの期間
既に報告されている第Ⅰ相試験1)と同様の結果ですね。再現性が得られているのではないでしょうか。
胃がんのエビデンス紹介:DESTINY-Gastric01
胃がんの根拠となった臨床試験は、三次治療以降のHER2陽性胃がん患者さんを対象に、化学療法(イリノテカンまたはパクリタキセル)とエンハーツを比較する国際共同第Ⅱ相臨床試験です。4)
主要評価項目は奏効率で、結果は以下の通りでした。
試験群 | 化学療法群 | エンハーツ群 |
奏効率 | 14% | 51% |
P<0.001 | ||
生存期間中央値 | 8.4か月 | 12.5か月 |
HR=0.59(95%CI:0.39-0.88) P=0.01 |
奏効率はもちろんのこと、生存期間もエンハーツ群で有意に延長していました!
副作用:間質性肺炎に注意!
DESTINY-Breast01試験では、主なGrade 3以上の副作用として好中球数減少(20.7%)、貧血(8.7%)、悪心(7.6%)、白血球数減少(6.5%)、疲労(6%)などが認められています。3)
重大な副作用としては、
- 間質性肺疾患(8.2%)
- 骨髄抑制(45.1%)
- Infusion reaction(3.3%)
が報告されていますので特に注意が必要です。
その中でも間質性肺炎については死亡例も報告されていることから、2020年3月25日の承認と同日、PMDAより安全対策に関する通知が発出されていますので必ずご確認ください。
令和2年3月25日付 薬生薬審発0325第1号|トラスツズマブ デルクステカン製剤の使用にあたっての留意事項について
用法・用量
乳がんと胃がんで少し投与量が異なりますので、一覧表にしてみました。
効能・効果 | 投与量 | 時間 | 間隔 |
乳がん | 5.4mg/kg(体重) | 90分 | 3週間 |
胃がん | 6.4 mg/kg(体重) | 90分 | 3週間 |
初回投与の忍容性が良好であれば2回目以降の投与時間は30分まで短縮可能
収載時の薬価
収載時(2020年5月20日)の薬価は以下の通りです。
- エンハーツ点滴静注用100mg1瓶:165,074円(1日薬価:21,224円)
算定根拠等については以下の記事をご確認ください。
-
【新薬:薬価収載】18製品+再生医療等製品(2020年5月20日)
続きを見る
まとめ・あとがき
エンハーツはこんな薬
- 抗HER2抗体薬のトラスツズマブに抗がん剤のデルクステカンを結合させたADC
- デルクステカンはトポイソメラーゼⅠを阻害する
- HER2陽性乳がん/胃がんの三次治療以降対して治療効果が期待
- 間質性肺炎には注意が必要
エンハーツは米国で、HER2陽性の再発・転移性乳がん治療を対象に画期的治療薬(Breakthrough Therapy)に指定されていて、2019年12月に迅速承認されています。
以上、今回は乳がん・胃がん治療とエンハーツの作用機序・特徴等について解説しました。
参考文献・資料等
- Lancet Oncol 2019; 20: 816-26
- Clin Cancer Res. 2016 Oct 15;22(20):5097-5108.
- DESTINY-Breast01試験:N Engl J Med 2020; 382:610-621.
- DESTINY-Gastric01試験:N Engl J Med 2020; 382:2419-2430
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