12.悪性腫瘍

タキソールとタキソテールの作用機序と副作用【抗がん剤】

今回はタキサン系抗がん剤の

  • タキソール(一般名:パクリタキセル)
  • タキソテール(一般名:ドセタキセル)

の作用機序や注意事項についてご紹介します。

 

両薬剤は製品名が似ており、取り間違いによる患者さんの死亡事故を引き起こしたこともあります。

 

がん細胞分裂(増殖メカニズム)と微小管

がんが細胞分裂を行う際には、まず細胞内のDNAを2倍に増やします(これを“複製”と呼んでいます)。

 

2倍に増えたDNAは「微小管」と呼ばれる糸のような構造物によって、それぞれ細胞の両極(両側)に均等に運ばれていきます。

その後、細胞の分裂が開始され、がん細胞の細胞分裂が完了します。

 

上記に関与している微小管は「チュブリン」と呼ばれるタンパク質の集合体です。

細胞分裂開始時にチュブリンが集まってきて微小管を形成します(これを“重合”と呼んでいます)。

 

そして細胞分裂が完了すると、チュブリンがバラバラになって微小管が分解されます(これを“脱重合”と呼んでいます)。

 

タキソールとタキソテールの作用機序

タキソールとタキソテールは微小管の脱重合を阻害するといった作用機序を有しており、タキサン系の抗がん剤に分類されています。

本来、細胞分裂完了と同時に分解されるはずの微小管が細胞内に残ったままになってしまい、がん細胞は細胞分裂を完了することができなくなります。

 

その結果、がん細胞は分裂できないままになり、死滅していってしまいます。

 

このようにタキソールとタキソテールは微小管の脱重合を抑制(重合を促進して微小管を安定化)することによって、がん細胞の増殖を抑えると考えられています。

 

タキソールとタキソテールの取り間違い事故と対策

タキソール(一般名:パクリタキセル)とタキソテール(一般名:ドセタキセル)、非常に製品名が似ていて、日本の発売はどちらも1997年です。

 

木元 貴祥
発売当初はパッケージも似ていたため、どちらがどちらか混乱してしまいますよね・・・。

 

また、略語も

  • タキソール:TXL、PTX(PAC)
  • タキソテール:TXT、DTX(DOC)

と、どちらがTXLとTXTなのか混同してしまいがちです。

 

適応症も両薬剤で似ていますが、投与量が全然異なっていました。

 

例えば、肺がんに使用する場合、

  • タキソール:1日1回210mg/㎡を3時間かけて投与
  • タキソテール:1日1回60mg/㎡を1時間以上かけて投与

と、投与量が3倍以上も異なっています。

 

本来、タキソールを投与すべき患者さんに対して、誤ってタキソテールを処方してしまうと、タキソテールが210mg/m2で投与されてしまうため、3倍以上の過量投与によって重篤な副作用も発現の危険性があります。

 

実際に取り間違いによって2000年頃に患者さんの死亡事故も起こってしまったのです・・・。

 

これを受けて各医療機関では自主的に、両薬剤は製品名(タキソールとタキソテール)ではなく、一般名(パクリタキセルとドセタキセル)で処方するようになっていきました。

 

その後、2008年に厚労省は『医薬品の販売名の類似性等による医療事故防止対策の強化・徹底について(注意喚起)』を発令し、類似名を有する薬剤がないかどうかチェックすることとなりました。

 

タキソール(パクリタキセル)の副作用と製剤的特徴

タキソールの主な副作用として、骨髄抑制(好中球減少など)、末梢神経障害、関節痛、筋肉痛、悪心・嘔吐、脱毛などが報告されています。

特に末梢神経障害はタキソテールよりも強く発現する印象があります。

 

また、有効成分のパクリタキセルは水に極めて溶けにくいため、製剤は「ポリオキシエチレンヒマシ油」と「無水エタノール」に溶解されています。

しかしながら、これらを使用することで過敏症(アレルギー)が高頻度に発現してしまうことが分かり、対策としてタキソール投与前にステロイドや抗ヒスタミン薬を前処置する必要があります。

 

これを改善した製剤としてアブラキサン(一般名:ナノアルブミン化パクリタキセル)が承認・販売されています。

アブラキサン(パクリタキセル)の作用機序と副作用【膵臓がん】

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タキソテール(ドセタキセル)の副作用と製剤的特徴

タキソテールの主な副作用として、骨髄抑制(好中球減少など)、食欲不振、脱毛、全身倦怠感、悪心・嘔吐、末梢神経障害、浮腫などが報告されています。

特に浮腫はタキソールよりも強く発現する印象があります。対策としてはデキサメタゾンの前投与などがあります。

 

タキソテールも水に溶けにくいため、調製時には「プレミックス」と呼ばれる添付の溶解液で用時溶解して使用します。

ただし、プレミックスにはエタノールが含まれているため、アルコール過敏や不耐の患者さんにはプレミックスを使用せずに生理食塩液やブドウ糖液で溶解して使用します。(プレミックスを使用する時よりも調製に時間がかかってしまいます)

 

その後、2011年には調製時の煩雑さの軽減、前述の取り間違い防止対策として、溶解液不要の液剤であるワンタキソテールが販売開始されました。

当初は全てのタキソテールがワンタキソテールに置き換わり、調製時間の短縮・取り間違いの防止にもなると期待されていました。

 

しかしながら、ワンタキソテールにはエタノールが含まれていたため、アルコール過敏や不耐の患者さんには使用できませんでした。

 

結局、アルコール過敏や不耐の患者さんには元々のタキソテールを生理食塩液や5%ブドウ糖液で溶解して使用するしか方法はなく、市場には

  • タキソール(液剤):エタノール含む
  • タキソテール(凍結乾燥製剤):プレミックス(エタノール含む)もしくは生食/ブドウ糖液で溶解
  • ワンタキソテール(液剤):エタノール含む

が混在してしまうことになりました。

 

また、タキソテールの溶解後の薬液濃度ワンタキソテールの薬液濃度が異なっているため、更にややこしくなってしまった印象です・・・。

 

あとがき

タキソールとタキソテールは古い抗がん剤ですが、現在でも肺がんや消化器がんではキードラッグとして使用されている薬剤です。

 

取り間違いの問題がありましたが、既に両薬剤の後発医薬品も登場してきたことから一般名処方が通常ですので、リスクは減ってきていると思います。

 

ワンタキソテールの後発医薬品の中には、エタノールを含まない製剤も登場していますので、調製時間の短縮とアルコール過敏・不耐の患者さんにもそのまま使用できるようになりました。

 

脱毛予防としての頭皮冷却システムも2019年に登場しましたので併せてご確認ください。

パックスマン・スカルプ・クーリングの作用機序【抗がん剤の脱毛予防】

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以上、今回はタキソール(一般名:パクリタキセル)とタキソテール(一般名:ドセタキセル)の作用機序や注意事項についてご紹介しました。

 

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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