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ベレキシブル(チラブルチニブ)の作用機序【悪性リンパ腫】

2020年8月21日、ベレキシブル(チラブルチニブ)の効能・効果に原発性マクログロブリン血症(WM)リンパ形質細胞リンパ腫(LPL)を追加することが承認されました。

小野薬品工業|ニュースリリース

基本情報

製品名 ベレキシブル錠80mg
一般名 チラブルチニブ
製品名の由来 「VELLE(ラテン語で望む)・VELA(イタリア語で帆・帆走)」+
「EXPECT(期待する)」+
「ブルトン(BRUTON)型チロシンキナーゼ」という意味を込めて
「VELEXBRU」と命名。
製造販売 小野薬品工業(株)
効能・効果 ●再発又は難治性の中枢神経系原発リンパ腫
●原発性マクログロブリン血症及びリンパ形質細胞リンパ腫
用法・用量 通常、成人にはチラブルチニブとして1日1回480mgを空腹時に経口投与する。
なお、患者の状態に応じて適宜減量する。
収載時の薬価 5,067.40円

 

ベレキシブルは2020年3月25日中枢神経系原発リンパ腫(PCNSL)を対象疾患として承認された新規のブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬です。

 

BTK阻害薬は慢性リンパ性白血病において、イムブルビカ(一般名:イブルチニブ)という薬剤は承認・販売されていますね。

血液
イムブルビカ(イブルチニブ)の作用機序と副作用【CLL】

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ベレキシブルの予定効能・効果であるPCNSL、WM、LPLはいずれも広義の「悪性リンパ腫」の一種ですので、悪性リンパ腫の疾患解説と共に、ベレキシブルの作用機序について解説していきます。

 

悪性リンパ腫とは

造血機腫瘍の中でも、リンパ系の血球成分(例:B細胞、T細胞、NK細胞など)から発生するものを「悪性リンパ腫」と呼んでいます。

 

細かい分類は非常に多いのですが、大きく分類すると以下の2種類です。1)

  • ホジキンリンパ腫(HL:Hodgkin lymphoma)
  • 非ホジキンリンパ腫(NHL:Non Hodgkin lymphoma)

 

木元 貴祥
国内ではほとんどがNHLと言われていますね。

 

今回ご紹介するPCNSL、WM、LPLも全てNHLの一種に分類されています。

 

また、悪性リンパ腫では、疾患の悪性度や予後の臨床分類としてアグレッシブ分類(低悪性度、中悪性度、高悪性度)が行われますが、PCNSL、WM、LPLは以下のアグレッシブ分類とされています。

 

  • PCNSL:中悪性度
  • WM・LPL:低悪性度

 

そしてPCNSL、WM、LPLの原因となるリンパ腫細胞は「B細胞」に由来していることがほとんどで、細胞膜表面には「B細胞受容体(BCR)」を発現していることが知られています。

 

中枢神経系原発リンパ腫(PCNSL)と治療

中枢神経系原発リンパ腫(PCNSL:primary central nervous system lymphoma)は、悪性リンパ腫の中でも中枢神経系(脳、脊髄、眼球)に発生するものとされています。

 

PCNSLの95%以上はNHL、5%はHLだそうですが、ここではNHLの一種とお考えいただいて大丈夫です。2)

 

そして治療の基本は薬物療法です。

初発時には高用量のメトトレキサートを行うことが一般的で、引き続いて全脳照射による放射線治療が行われます。2)

 

場合によっては、リツキサン(一般名:リツキシマブ)やその他の抗がん剤を併用することもあるようです。

 

しかし、これら抗がん剤を行って治療効果が得られたとしても、多くの場合、再発してしまうことがあり、その後の治療選択肢は限られていました。

また初回の高用量メトトレキサートで抵抗性を示した場合にも、その後の有効な薬剤がありませんでした。

 

木元 貴祥
今回ご紹介するベレキシブルは再発・難治性のPCNSLに対して治療効果が期待されていますね!

 

リンパ形質細胞リンパ腫(LPL)・原発性マクログロブリン血症(WM)

リンパ形質細胞性リンパ腫(LPL:Lymphoplasmacytic Lymphoma)は、悪性リンパ腫の中でもリンパ球や形質細胞が腫瘍化(がん化)してしまい、骨髄やリンパ節、脾臓、肝臓などに浸潤するのが特徴です。

 

また、リンパ形質細胞性リンパ腫の中には特に骨髄に浸潤して悪さをするものがいて、これを原発性マクログロブリン血症(WM:Waldenström’s macroglobulinemia)と呼んでいます。

 

LPLやWMはは、低悪性度に分類されていて、非常に進行が遅いため、症状がなければ経過観察を行います。

しかし、病状進行によって症状が出てきた際には、抗がん剤や分子標的治療薬などを適宜併用した治療を行うことになります。

 

症状として血液の循環が悪化する状態(過粘稠度症候群かねんちょうどしょうこうぐん)にある場合には「血漿交換」を行い、並行して抗がん剤による薬物療法を行うことが一般的です。

 

血漿交換とは?

体外に取り出した血液を血漿分離器で血球成分と血漿成分に分離した後、患者さんの血漿を廃棄し、その分を健常な方の血漿(あるいはアルブミン)で置き換える治療を言います。

血漿交換を行うことで、血漿成分に含まれる病因物質を除去することができます。同時に、正常な血漿に含まれる凝固因子を補充することも可能です。

【出典】大阪大学腎臓内科

 

薬物療法としては、シクロホスファミド、フルダラビン、ベルケイド(一般名:ボルテゾミブ)トレアキシン(一般名:ベンダムスチン)、デキサメタゾン等を用いた併用療法が基本で、リツキサンを併用することもあります。

 

しかし、初回治療で抵抗を示したり、再発したりした場合、その後の治療選択肢は限られていました。

 

今回ご紹介するベレキシブルはLPLやWMの初回治療例や、再発・難治例に対して治療効果が期待されていますね!

 

木元 貴祥
それではベレキシブルが関与するBTKについて解説していきます。

 

ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)とは

リンパ腫細胞の表面には「B細胞受容体(BCR)」が発現していることが知られています。

 

BCRに増殖因子が結合すると、そのシグナル伝達が細胞質内に伝えられ、途中に「ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)」を経由して核内に伝わります。

B細胞B細胞受容体(BCR)とブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)

 

核内までシグナル伝達が伝わると腫瘍細胞の増殖が促進され、活性化・症状悪化が引き起こされると考えられますね。

 

ベレキシブル(チラブルチニブ)の作用機序

ベレキシブルは腫瘍細胞のブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)を選択的に阻害する薬剤です。

 

BTKを阻害することでシグナル伝達が阻害され、結果的に腫瘍細胞の増殖を抑制することが可能となります。

ベレキシブル(チラブルチニブ)の作用機序

 

エビデンス紹介

根拠となった臨床試験は以下があります。

  • PCNSL:ONO-4059-02試験(第Ⅰ/Ⅱ相試験)3)
  • LPL・WM:ONO-4059-05試験(第Ⅱ相試験)4)

 

ONO-4059-02試験は再発又は難治性の中枢神経系原発リンパ腫患者さん(B 細胞性腫瘍以外の患者を除く)を対象とした単群の試験で、第Ⅱ相パートの480mg投与においては奏効率は53%であったと報告されています。3)

 

木元 貴祥
両試験の結果概要についてはメーカーのニュースリリースに掲載されていました。

小野薬品工業|2019年12月9日ニュースリリース

 

副作用

10%以上認められる副作用として、悪心、嘔吐、便秘、高カリウム血症、高トリグリセリド血症、発疹、斑状丘疹状皮疹などが報告されています。

 

重大な副作用として、

  • 出血(頻度不明)
  • 感染症:肺炎(ニューモシスチス肺炎を含む)(5.9%)、アスペルギルス感染症(5.9%)
  • 重度の皮膚障害:多形紅斑(頻度不明)、中毒性皮疹(頻度不明)
  • 骨髄抑制:発熱性好中球減少症(頻度不明)、好中球減少(23.5%)、白血球減少(17.6%)、リンパ球減少(11.8%)、血小板減少(5.9%)、貧血(5.9%)
  • 過敏症:アナフィラキシー等の過敏症(頻度不明)
  • 間質性肺疾患:間質性肺炎(頻度不明)、肺臓炎(頻度不明)
  • 肝機能障害:AST(5.9%)、ALT(5.9%)、γ-GTP(頻度不明)、Al-P(頻度不明)、ビリルビン(頻度不明)

が挙げられていますので、特に注意が必要です。

 

用法・用量

通常、成人にはチラブルチニブとして1日1回480mgを空腹時に経口投与します(患者さんの状態に応じて適宜減量)。

 

収載時の薬価

収載時(2020年5月20日)の薬価は以下の通りです。

 

  • ベレキシブル錠80mg:5,067.40円(1日薬価:30,404.40円)

 

算定根拠等については以下の記事をご確認ください。

【新薬:薬価収載】18製品+再生医療等製品(2020年5月20日)

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まとめ・あとがき

ベレキシブルはこんな薬

  • ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)を選択的に阻害する
  • PCNSL、LPL、WMに対して治療効果が期待されている

 

ベレキシブルはこれまで治療選択肢の少なかったPCNSL、LPL、WMに対して治療効果が期待されています。

 

BTK阻害薬としては慢性リンパ性白血病治療薬のイムブルビカ(一般名:イブルチニブ)に次いで2剤目ですが、イムブルビカはPCNSL、LPL、WMの適応を有していません。

血液
イムブルビカ(イブルチニブ)の作用機序と副作用【CLL】

続きを見る

 

患者さんにとっては治療選択肢が増えることは朗報ではないでしょうか。

 

以上、今回は中枢神経系原発リンパ腫(PCNSL)、原発性マクログロブリン血症(WM)、リンパ形質細胞リンパ腫(LPL)と共にベレキシブル(チラブルチニブ)の作用機序について解説しました。

 

引用文献・資料など

  1. 日本血液学会|造血器腫瘍診療ガイドライン2018年版
  2. 日本脳腫瘍学会|脳腫瘍診療ガイドライン2019版
  3. ONO-4059-02試験:Neuro Oncol. 2021 Jan 30;23(1):122-133. 
  4. 米国血液学会(ASH2019)#345

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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