1.中枢神経系

セリンクロ(ナルメフェン)の作用機序と副作用【アルコール依存症】

更新日:

厚労省の薬事・食品衛生審議会医薬品第一部会は2018年11月9日に、「アルコール依存症患者における飲酒量の低減」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品のセリンクロ錠10mg(一般名:ナルメフェン)の承認を了承しました。

現時点では未承認のためご注意ください。

製薬会社

製造販売元(仮):塩野義製薬(株)

 

セリンクロは、これまでのアルコール依存症の治療薬(抗酒薬断酒薬)とは異なり、「減酒」をコンセプトとした国内初の薬剤となる予定です!

また、海外では既に「Selincro」という製品名で販売されています。

今回はアルコール依存症セリンクロ(ナルメフェン)の作用機序についてご紹介します。

 

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アルコール依存症とは

二十歳以上の方でしたら一度はお酒を経験したことがあると思います。

お祝い事や会食など多くの場面でお酒を経験することがあり、生活・文化の一部として親しまれています。

お酒は「百薬の長」とも言われ、適度な飲酒は健康に良いと言われていますが、多量・長期間のお酒はがんの発症リスクを高めたり、死亡リスクを高めてしまいます。

 

アルコール依存症とは、大量のお酒を長期間飲み続けることで、お酒がないといられなくなる状態のことを言います。

常にアルコールが体内にないと不安やイライラしてしまい、アルコールが抜けると離脱症状として頭痛・嘔気・下痢・手の震え・発汗・動悸などの身体面の症状も現れてしまいます。

この症状を抑えるために、またお酒を飲んでしまう、といったサイクルを繰り返してしまいます。

 

アルコール依存症の患者さんは国内で約80万人以上と推定されていますが、予備軍も含めると約440万人にもなると考えられています。

 

アルコール依存症とドパミン

依存症には脳内のドパミンが深く関わっています。

ドパミンは何かを成し遂げた時(試験合格、仕事のプロジェクト終了、試合で勝利した時)などによく分泌され、「快楽、意欲、多幸感」を司ることが知られています。

 

通常は適度なドパミン量が保たれていますが、過剰なドパミン放出によって「統合失調症(陽性症状)」を発症してしまいますし、不足しているとパーキンソン病を発症してしまいます。

 

飲酒の際にはドパミンの放出が促進され、「快楽・多幸感」を得ることができますが、これが過度であったり、繰り返し得ようとすることでアルコール依存症を発症してしまいます。

 

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ドパミン放出とオピオイド受容体

ドパミンの放出調節には脳内の以下のオピオイド受容体が関与しています。

オピオイド受容体

  • μ(ミュー)オピオイド受容体:ドパミン放出促進
  • δ(デルタ)オピオイド受容体:ドパミン放出促進
  • κ(カッパ)オピオイド受容体:ドパミン放出抑制

 

適度な飲酒ではまずμとδオピオイド受容体が適度に刺激され、ドパミン放出促進による多幸感が得られます。

飲酒から少し経過すると、κオピオイド受容体刺激によってドパミン放出が抑制され、嫌悪感を感じます。

この嫌悪感依存症の解消効果もあります。

従って、適度な飲酒では、μとδオピオイド受容体の刺激による多幸感と、κオピオイド受容体刺激による嫌悪感バランス良く存在しているためアルコール依存症にはなりません。

 

アルコール依存症の始まりは、多幸感を繰り返し得ようとして短期間に何度も大量の飲酒を行なってしまいます。

しかし、μとδオピオイド受容体によって得られる多幸感は、繰り返しの飲酒によって徐々に弱まっていくことが知られています。

そうすると、飲酒をしても僅かにしか多幸感が得られず、すぐにκオピオイド受容体刺激による嫌悪感を感じてしまいます。

 

アルコール依存症は、この嫌悪感を解消するために繰り返し何度も飲酒(多幸感の継続獲得)を行うようになってしまった状態です。

 

セリンクロ(一般名:ナルメフェン)の作用機序

セリンクロは、

  1. μとδオピオイド受容体の遮断作用
  2. κオピオイド受容体のパーシャルアゴニスト(部分作動)作用

といった作用機序を有する薬剤です。

 

μとδオピオイド受容体の遮断作用

μとδオピオイド受容体の遮断によって、飲酒による過度な多幸感(飲酒欲求)を抑えると考えられます。

 

κオピオイド受容体のパーシャルアゴニスト作用

κオピオイド受容体は、完全に遮断してしまうと依存症が増強されてしまうことが知られています。

 

パーシャルアゴニスト(部分作動)作用」とは、受容体を少しだけ刺激し、かつ少しだけ遮断する、といった作用のことを言います。

つまり、受容体の適度な刺激と遮断作用を有するのがパーシャルアゴニスト作用です。

従って、セリンクロはκオピオイド受容体を正常な状態に近づけることが可能となります!

これによって、飲酒による嫌悪感を弱められると考えられます。

 

以上の作用機序によって、飲酒欲求を抑制し、飲酒量を減らすことが期待される薬剤です。

そのためセリンクロは「減酒薬」と呼ばれています。

 

エビデンス紹介

後日更新予定です。

 

セリンクロの副作用と注意事項

主な副作用として、めまい、気分が悪い、頭痛、睡眠障害、食欲不振、下痢、などが報告されています。

 

また、承認条件として、以下が設けられています。

本剤の安全性及び有効性を十分に理解し、アルコール依存症治療を適切に実施することができる医師によってのみ処方されるよう、適切な措置を講じること

 

セリンクロの用法・用量

成人にはナルメフェン塩酸塩として1回10mg(1錠)を飲酒の1〜2時間前に経口投与します。

ただし、1日1回までとされています。

 

なお、症状により適宜増量することができますが、1日量は20mg(2錠)を超えないこととされています。

 

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セリンクロの薬価

現時点では、未承認・薬価未収載です。

 

抗酒薬(嫌酒薬)・断酒薬との違い

アルコール依存症の治療薬としては、現在までに以下の3種類が販売されています。

 

アルコール依存症の治療薬

  • シアナマイド(一般名:シアナミド):抗酒薬
  • ノックミン(一般名:ジスルフィラム):抗酒薬
  • レグテクト(一般名:アカンプロサート):断酒薬

 

抗酒薬(嫌酒薬とも言います)は、アルコールの代謝物質であるアセトアルデヒトの分解を阻害する薬剤です。

アセトアルデヒドは悪酔いや二日酔いの原因物質のため、抗酒薬を服用すると、少量の飲酒でも辛い二日酔いのような症状を感じさせ、お酒を嫌いになってもらうようにするといったコンセプトです。

詳しくは以下の記事をご参照ください。

 

断酒薬のレグテクトとは、中枢神経系に作用し、グルタミン酸作動性神経活動を抑制することで、飲酒欲求を抑える薬剤です。断酒の意志のある患者さんに対して、「断酒の維持」を補助する目的で使用されます。

詳しくは以下の記事をご参照ください。

 

アルコール依存症の治療は、飲酒を完全にやめる「断酒」がゴールです。

しかし、患者さん本人もお酒が好きなため、完全な断酒にはしばしば抵抗感があり、このため受診率の低下治療意欲(治療継続率)の低下を招いてしまっていました。

 

セリンクロは断酒に向けた減酒を目的としているため、比較的受け入れられやすい治療法ではないでしょうか。

 

まとめ・あとがき

セリンクロはこんな薬

  • μとδオピオイド受容体の遮断作用
  • κオピオイド受容体のパーシャルアゴニスト作用
  • 飲酒前に服用することで飲酒量を減らすことができる

 

セリンクロは「減酒」をコンセプトとする新規作用機序の薬剤です。

これまで断酒以外になかったアルコール依存症の治療選択肢の幅が広がり、お酒をやめることなくアルコール依存症の治療が可能となるのではないでしょうか。

それによって、病院への受診率向上や治療意欲(治療継続率)も向上すると期待されています。

処方に当たっては承認条件に沿い、必ず専門医を受診ください。

 

減酒の考え方は欧米ですでに普及しているため、今後、日本においても普及していく治療法だと思われます!

 

以上、今回はアルコール依存症セリンクロ(ナルメフェン)の作用機序についてご紹介しました。

参考になったらシェアいただけると嬉しいです!
   

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

大阪薬科大学 卒。外資系製薬メーカー(MR)、薬剤師国家試験予備校講師、調剤薬局薬剤師を経て現在に至る。今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師です。薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。FP資格あり。

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