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エプクルーサ配合錠(ベルパタスビル/ソホスブビル)の作用機序と特徴【C型肝炎】

2022年8月24日エプクルーサ配合錠(ベルパタスビル/ソホスブビル)の「C型慢性肝炎およびC型代償性肝硬変におけるウイルス血症の改善」に関する適応拡大が承認されました!

ギリアド・サイエンシズ|ニュースリリース

基本情報

製品名 エプクルーサ配合錠
一般名 ベルパタスビル/ソホスブビル
製品名の由来 特になし
製造販売 ギリアド・サイエンシズ(株)
効能・効果 前治療歴を有するC型慢性肝炎又はC型代償性肝硬変におけるウイルス血症の改善
C型慢性肝炎、C型代償性肝硬変又はC型非代償性肝硬変におけるウイルス血症の改善
用法・用量 記事内参照
収載時の薬価 60,154.50円

 

エプクルーサ配合錠は、2019年1月8日に「前治療歴を有するC型慢性肝炎・C型代償性肝硬変」などを効能・効果として承認された直接作用型抗ウイルス剤(DAA)ですが、今後はC型慢性肝炎・C型代償性肝硬変の初回治療から使用可能です。

 

木元 貴祥
全てのジェノタイプに対して使用できます。

 

ちなみに、代償性肝硬変に対してはマヴィレット配合錠などが使用可能ですが、非代償性肝硬変に使用できる薬剤はエプクルーサ配合錠のみですね。

 

今回ご紹介するエプクルーサ配合錠は非代償性肝硬変を伴うC型肝炎ウイルスに対しても有効性が期待できる薬剤です!

 

C型肝炎とは

C型肝炎は「C型肝炎ウイルス(HCV)」に感染することで引き起こされます。

一度HCVに感染すると約70%の方はが持続感染者となり、そのまま自覚症状のないまま病気が進行していきます。

 

しかし放っておくと、

  • 慢性肝炎→肝硬変→肝がん

と進行してしまうため、HCVに感染した場合、症状が無い状態から治療を開始することが望ましいです。

 

現在では国内に約100万人のHCV感染者の方がいると推定されています。

 

C型肝炎の症状

肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれており、ちょっとやそっとの病気では症状が現れません。

HCV感染でも慢性肝炎の状態ではなかなか症状が現れにくく、肝硬変になってだんだんと症状が現れます。

 

肝硬変の主な症状は以下があります。

  • 手掌紅斑:手のひらが赤くなる
  • 黄疸
  • 浮腫(腹水貯留)
  • 出血傾向(鼻血など)

 

肝硬変でも上記のような症状がいずれもみられない場合を「代償性肝硬変」、いずれかの症状がみられる場合を「非代償性肝硬変」と分類しています。

 

C型肝炎ウイルスの増殖

C型肝炎ウイルスは自分自身の力で増殖することはできません

そこで、ウイルスは宿主(ヒトの細胞)の力を借りて、増殖を行います。

 

ヒトの細胞にC型肝炎ウイルスが侵入(感染)すると、ウイルス由来の遺伝子(RNA)を放出します。

その後、ウイルス由来RNAは、ヒト細胞内のタンパク質や因子等を勝手に使用してRNAの複製を行います。

この複製過程では、まず「HCV複製複合体」と呼ばれる工場のようなものを形成します。

 

この工場(HCV複製複合体)の中でRNAの複製が行われますが、複製には「NS5Bポリメラーゼ」と呼ばれるタンパク質が関与しています。

 

C型肝炎ウイルスの治療

C型肝炎ウイルスは変異が起こりやすいく、多くの遺伝子変異が確認されています。

そのため、C型肝炎ウイルスは遺伝子型(ジェノタイプ)によって細かく分けられます。

 

その中でも、日本人では

  • ジェノタイプ1b型(約70%)
  • ジェノタイプ2a型(約20%)
  • ジェノタイプ2b型(約10%)

の3種類が多いとされておりますが、その他にも極めて稀なジェノタイプ3~6型も存在しています。

 

昔はインターフェロンを用いた治療が基本でしたが、最近ではインターフェロンを用いない治療法である直接作用型抗ウイルス剤(DAA)によって治癒が見込める時代となってきました。

 

C型肝炎治療ガイドライン(第8.2版)1)で推奨されている主なDAAは以下の通りです。

慢性肝炎(DAAの治療歴なし)
ジェノタイプ1型/2型
代償性肝硬変(DAAの治療歴なし)
ジェノタイプ1型/2型

 

2022年から、慢性肝炎・代償性肝硬変の全てのジェノタイプのDAA未治療例に対してもエプクルーサが使用できるようになり、現在のガイドラインでも推奨されています。

 

上記のようなDAA治療に抵抗性を示した場合マヴィレット配合錠の12週投与や、エプクルーサ配合錠+リバビリンの24週投与が推奨されています。1)

 

 

また、「C型非代償性肝硬変」ではエプクルーサ配合錠が全てのジェノタイプで推奨されるようになっています。1)

 

今回ご紹介するエプクルーサ配合錠は

  • 慢性肝炎・代償性肝硬変の全てのジェノタイプのDAA未治療例
  • 慢性肝炎・代償性肝硬変のジェノタイプ1型又は2型でDAA治療に抵抗を示した場合
  • 非代償性肝硬変を伴うC型肝炎ウイルス

に有効性が期待できる薬剤です!

 

エプクルーサ配合錠(ベルパタスビル/ソホスブビル)の作用機序・特徴

エプクルーサ配合錠は、

  • NS5A複製複合体を阻害する「ベルパタスビル」
  • NS5Bポリメラーゼを阻害する「ソホスブビル」

を配合した薬剤です。

 

ソホスブビルは商品名「ソバルディ」として既に承認・販売されている有効成分です。

それぞれの有効成分の作用機序についてご説明します。

 

ベルパタスビルは、ウイルスRNAの複製過程における「HCV複製複合体」の中でも、「NS5A複製複合体」を阻害する薬剤です。

ソバルディ(ソホスブビル)は、RNA複製過程に関与する「NS5Bポリメラーゼ」を阻害する薬剤です。

エプクルーサ配合錠(ベルパタスビル/ソホスブビル)の作用機序

 

このように、HCVの複製に関わるNS5A複製複合体NS5Bポリメラーゼを共に阻害することでウイルスの増殖抑制効果を発揮すると考えられているのがエプクルーサ配合錠です!

 

エビデンス紹介:非代償性肝硬変に対して

C型非代償性肝硬変患者さんを対象とした国内第Ⅲ相試験をご紹介します。2)

本試験はC型非代償性肝硬変患者さんを対象に、エプクルーサ配合錠投与群もしくはエプクルーサ配合錠+レベトール(リバビリン)併用群を比較した試験です。

両群共に投与期間は12週間とされています。

 

主要評価項目は「SVR12率*」で、結果は下表の通りでした。

試験群 エプクルーサ配合錠群 エプクルーサ配合錠+
リバビリン併用群
SVR12率* 92% 92%
何らかの有害事象 69% 86%
重篤な有害事象 8% 14%

*SVR12率:投与終了後12週時点での持続性ウイルス学的著効

 

このようにエプクルーサ配合錠はリバビリン併用の有無に関わらず高いSVR12率を示しました。

また、リバビリンを併用すると有害事象の頻度が高まることから、併用無しで十分だと思われます。

 

エビデンス紹介:DAA治療不成功例に対して

DAAによる前治療不成功のC型慢性肝炎とC型代償性肝硬変の患者さんを対象とした国内第Ⅲ相試験をご紹介します。3)

本試験はDAAによる前治療不成功のジェノタイプ1型又は2型のC型慢性肝炎とC型代償性肝硬変の患者さんを対象に、エプクルーサ配合錠+レベトール(リバビリン)併用の12週間もしくは24週間投与を比較した試験です。

 

主要評価項目は「SVR12率*」で、結果は下表の通りでした。

試験群 エプクルーサ配合錠+
リバビリンの12週投与
エプクルーサ配合錠+
リバビリンの24週投与
SVR12率* 82% 97%
p=0.023
ジェノタイプ1型の
SVR12率*
85% 98%
ジェノタイプ2型の
SVR12率*
70% 92%
何らかの有害事象 81% 75%
重篤な有害事象 0% 7%

*SVR12率:投与終了後12週時点での持続性ウイルス学的著効

 

このようにDAAによる前治療が不成功であった患者さんに対しても、エプクルーサ配合錠+リバビリンを24週投与することで高いSVR12率が得られています。

 

エビデンス紹介:DAA未治療例に対して

慢性肝炎・代償性肝硬変のDAA未治療例(インターフェロン治療歴あり)に対して根拠となった臨床試験は以下があります。

  • GS-US-342-5531:C型代償性肝硬変患者さんを対象
  • GS-US-342-1138(ASTRAL-1試験)4):C型慢性肝炎またはC型代償性肝硬変患者さんを対象(ジェノタイプ1、2、4、5、6)にプラセボと比較
  • GS-US-342-1139(ASTRAL-2試験)5):C型慢性肝炎またはC型代償性肝硬変患者さんを対象(ジェノタイプ2)にソバルディ錠+リバビリンと比較
  • GS-US-342-1140(ASTRAL-3試験)5):C型慢性肝炎またはC型代償性肝硬変患者さんを対象(ジェノタイプ3)にソバルディ錠+リバビリンと比較

 

詳細は割愛しますが、いずれの試験においてもエプクルーサ配合錠群で主要評価項目を達成していました。

 

用法・用量

以下の適応に使用する場合、いずれも1日1回の経口投与ですが、期間が異なります。

  • 未治療又は前治療歴のないC 型慢性肝炎又はC型代償性肝硬変、C型非代償性肝硬変におけるウイルス血症の改善:12週間
  • 前治療歴を有するC型慢性肝炎、C型代償性肝硬変におけるウイルス血症の改善:リバビリンとの併用で24週間

 

副作用

主な副作用として、貧血、倦怠感、そう庠症、発疹、頭痛などが認められています。

 

収載時の薬価

収載時(2019年2月26日)の薬価は以下の通りです。

  • エプクルーサ配合錠:60,154.50円(1日薬価:60,154.50円)

 

算定方法等については以下の記事をご参照ください。

【新薬:薬価収載】13製品+再生医療等製品(2019年2月26日)

続きを見る

 

まとめ・あとがき

エプクルーサ配合錠はこんな薬

  • ベルパタスビルがNS5A複製複合体を阻害する
  • ソホスブビルがNS5Bポリメラーゼを阻害する
  • C型非代償性肝硬変に対して効果が期待できる
  • C型慢性肝炎・C型代償性肝硬変のジェノタイプ1型又は2型でDAA治療不成功例に対して効果が期待できる
  • C型慢性肝炎、C型代償性肝硬変にの全てのジェノタイプのDAA未治療例に対して効果が期待できる

 

これまでC型代償性肝硬変に対してはマヴィレット配合錠の12週投与が使用可能でしたが、C型非代償性肝硬変に対しては有効な治療薬がなかったため、エプクルーサ配合錠が期待されます!

 

また、DAA治療不成功の場合にもマヴィレット配合錠(12週投与)と並んでエプクルーサ配合錠(24週投与)が期待できると思われます。

マヴィレット(ピブレンタスビル/グレカプレビル)の作用機序【C型肝炎】

続きを見る

 

以上、今回はC型肝炎とエプクルーサ配合錠の作用機序やエビデンスについてご紹介しました☆

 

引用文献・資料等

  1. C型肝炎治療ガイドライン(第8.2版)
  2. GS-US-342-4019試験:J Gastroenterol. 2019 Jan;54(1):87-95.
  3. GS-US-342-3921試験:Hepatol Int. 2018 Jul;12(4):356-367.
  4. ASTRAL-1試験:N Engl J Med 2015; 373:2599-2607
  5. ASTRAL-2およびASTRAL-3試験:N Engl J Med 2015; 373:2608-2617

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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