11.血液・造血器系

イスパロクト静注用の作用機序・特徴:ノボエイトとの違い【血友病A】

更新日:

2019年9月20日、「血液凝固第Ⅷ因子欠乏患者における出血傾向の抑制」を効能・効果とするイスパロクト静注用(ツロクトコグ アルファ ペゴル)が承認されました。

「血液凝固第Ⅷ因子欠乏患者」とは、いわゆる「血友病A」のことです。

ノボ ノルディスク ファーマ|ニュースリリース

基本情報

製品名イスパロクト静注用500/1000/1500/2000/3000
一般名ツロクトコグ アルファ ペゴル(遺伝子組換え)
製品名の由来特になし
製造販売ノボ ノルディスク ファーマ(株)
効能・効果血液凝固第Ⅷ因子欠乏患者における出血傾向の抑制
用法・用量12歳以上:4日毎に投与する
12歳未満の小児:週2回投与する(週2回又は3日毎も可)
収載時の薬価薬価未収載

 

有効成分のツロクトコグ アルファは製品名「ノボエイト静注用」として既に承認・販売されていますが、これをPEG化して半減期延長型にしたのがイスパロクトですね。

 

木元 貴祥
ノボエイトの改良(長時間作用)版がイスパロクトというイメージです!

 

今回は止血のメカニズムと血友病、そしてイスパロクト静注用(ツロクトコグ アルファ ペゴル)の作用機序、ノボエイトとの違いついてご紹介します。

 

止血のメカニズム

我々が怪我などをした際に出血すると、体内では血を止めようとする機構(止血機構)が働きますが、止血には血小板が関わる一次止血と、凝固因子が関わる二次止血があります。

 

出血が起こると、まずは血中に存在する血小板が活性化し、損傷部位に集まってきて血栓(一次血栓)を形成します。

これを一次止血と呼びますが、これだけでは簡単に剥がれてしまいます。

 

次いで、一次止血を補強する目的で二次止血が行われます。

二次止血では一次血栓の周囲を「フィブリン」と呼ばれるタンパク質で覆い、強固な止血血栓(二次血栓)を完成させます。

一次止血と二次止血:血小板とフィブリンの働き

 

二次血栓に関与するフィブリンは様々な「凝固因子」が血液凝固反応(カスケード)を引き起すことで生成されます。

 

二次止血時の血液凝固反応(カスケード)とは

血液凝固反応では、全部で14種類の凝固因子が活性化することで引き起こされます。

一般的に凝固因子はローマ数字(例:Ⅴ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ)で表され、活性化した凝固因子はローマ数字の後ろに“a”を付けて(例:Ⅴa、Ⅶa、Ⅸa、Ⅹa)表されます。

 

木元 貴祥
体内の血液凝固反応は、反応の引き金となる因子の違いから「外因系」と「内因系」に分けられていますが、今回は内因系をメインにご紹介します。

 

内因系の血液凝固反応は第Ⅶ因子が活性化(Ⅶ⇒Ⅶa)されることで開始されます。

Ⅶaはいくつかの反応を経て、第Ⅸ因子を活性化(Ⅸ⇒Ⅸa)します。

また、第Ⅷ因子が活性化したⅧaと、Ⅸaによって第Ⅹ因子が活性化(Ⅹ⇒Ⅹa)されます。

Ⅹaはプロトロンビンをトロンビンに変換し、トロンビンはフィブリノゲンをフィブリンに変換します。

二次止血の血液凝固反応(カスケード)

 

このような連続反応を血液凝固反応(カスケード)と呼び、最終産物のフィブリンが二次止血を行うことで、強固な血栓(二次血栓)を形成します。

 

木元 貴祥
今回ご紹介する血友病は上記の凝固因子が欠損して発症する疾患です。

 

血友病とは

血友病は先天的に血液凝固因子が欠損している疾患です。

第Ⅷ因子が欠損している場合を「血友病A」、第Ⅸ因子が欠損している場合を「血友病B」と分類していて、血友病Aが約80%を占めます。

 

木元 貴祥
血友病は染色遺体の伴性劣性遺伝のため、男性の患者がほとんどですね。

 

国内での発症率は男児出生1万人に約1人で、現在では6,000名程の患者さんがいらっしゃると推測されています。1)

 

血友病の病態と症状

血友病では血液凝固因子が欠損していることから、二次止血における血液凝固反応(カスケード)がうまく働きません。

その結果、二次止血に重要な「フィブリン」が生成されないため、様々な出血の症状が現れます。

血友病の病態

 

特徴的な出血症状は、関節内や筋肉内の出血(深部出血)です。その他、抜歯後に血が止まらなかったり、頭蓋内で出血することもあります。

 

血友病の治療

血友病の治療は、欠損している血液凝固因子を補充する治療が基本です。

 

血友病による出血を予防するため、欠損している因子の「定期補充療法」を行います。また、出血してしまった際には適宜、「オンデマンド補充療法」を行います。

オンデマンド(on-demand)とは、「必要に応じて」を意味します。

 

血液凝固因子製剤は在宅でも安全に静脈内投与ができることから、上記の定期補充療法を中心として、出血時には必要に応じてオンデマンド補充療法を行うことが一般的です。

今回ご紹介するイスパロクトは、血友病Aで欠損している第Ⅷ因子の補充を目的としている治療薬です。

 

現在、血友病Aに使用できる主な定期補充療法薬(第Ⅷ因子製剤)には、以下があります。

 

木元 貴祥
イスパロクトもPEG化製剤のため、アディノベイトジビイと同系統の薬剤ですね。

 

また、2018年には血友病Aにおいて、Ⅹaの生成を促進するバイスペシフィック抗体薬のヘムライブラ皮下注(一般名:エミシズマブ)が使用可能となっています!

ヘムライブラ(エミシズマブ)の作用機序と二重特異性抗体【血友病A】

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イスパロクト(ツロクトコグ アルファ ペゴル)の構造と作用機序・特徴

イスパロクトは、ヒト第Ⅷ因子のツロクトコグ アルファPEG(ポリエチレングリコール)を結合させた半減期延長型の製剤です。

 

PEG化することによって、半減期が延長し長時間作用するといった特徴があります。

イスパロクト(ツロクトコグ アルファ ペゴル)の構造

 

イスパロクトによって第Ⅷ因子が補充されますので、その後の血液凝固反応が進行して無事にフィブリンが生成され二次止血が完了します。

イスパロクト(ツロクトコグ アルファ ペゴル)の作用機序

 

イスパロクトとノボエイトの違い・比較

PEG化する前のツロクトコグ アルファについては、既に製品名「ノボエイト静注用」として承認・販売されていますが、投与間隔が異なります。

製品名イスパロクトノボエイト
一般名ツロクトコグ アルファ ペゴルツロクトコグ アルファ
発売年2019年予定2014年
PEG化×
小児適応有り(の予定)有り
定期補充療法時の
投与間隔
12歳以上:4日毎
12歳未満の小児:週2回(週2回又は3日毎も可)
12歳以上:週3回
12歳未満の小児:隔日 or 週3回

 

木元 貴祥
成人の定期補充療法の場合、ノボエイトでは週3回投与が必要でしたが、イスパロクトでは4日に1回の投与で治療が可能ですね。患者さんの負担軽減に繋がることが期待されます。

 

エビデンス紹介:Pathfinderプログラム(成人・小児)

エビデンスとしては、Pathfinderプログラムと呼ばれるいくつかの臨床試験が根拠とされていて、代表的な臨床試験は以下です。

  • Pathfinder 2:既治療歴のある12歳以上の成人血友病A患者さんを対象とした非盲検単群の第Ⅲ相試験2)
  • Pathfinder 5:既治療歴のある12歳未満の小児血友病A患者さんを対象とした非盲検単群の第Ⅲ相試験3)

 

木元 貴祥
いずれも有効性と忍容性が確認されたと報告されていましたね。

 

既存薬等との比較試験や未治療の患者さんを対象とした臨床試験もあればいいのですが・・・まだ報告は見つかりませんでした。

 

定期補充療法によるインヒビターの出現

定期補充療法を繰り返していると、補充している凝固因子を「異物(非自己)」と認識し、凝固因子に対して抗体が産生されてしまうことがります。

 

このような抗体のことを「インヒビター」と呼び、血友病A患者さんの約10%~15%に認められます。

インヒビターが出現してしまうと、当然、補充した凝固因子が働くことができないため、止血能力が失われてしまいます。

 

木元 貴祥
イスパロクトでのインヒビター出現率は添付文書に記載されていませんが、インヒビターのリスクは書かれていましたので注意が必要です。

 

インヒビターが出現した際に使用できる薬剤としてはヘムライブラ(一般名:エミシズマブ)が使用可能ですね。

 

薬価

現時点では薬価未収載です。

 

まとめ・あとがき

イスパロクトはこんな薬

  • 血友病Aの定期補充療法薬(第Ⅷ因子製剤)
  • PEG化されているため半減期が延長して長時間作用する
  • インヒビターの出現には注意が必要

 

血友病A治療の基本はイスパロクトなどの定期補充療法が一般的ですが、2018年には新しい治療概念としてⅩaの生成を促進するバイスペシフィック抗体薬のヘムライブラ皮下注(一般名:エミシズマブ)が使用可能となっています!

ヘムライブラ(エミシズマブ)の作用機序と二重特異性抗体【血友病A】

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ヘムライブラは最大4週間間隔の投与で治療が可能ですので、これまでの定期補充療法(最大でも週1回投与)よりも投与頻度が少なく、使いやすい印象を受けます。

 

木元 貴祥
今後、定期補充療法とヘムライブラのどちらかが良いのか、検討が進めば興味深いと感じますね。個人的にはヘムライブラにシフトしていきそうな予感がしていますが・・・。

 

以上、今回は止血のメカニズムと血友病、そしてイスパロクトの作用機序についてご紹介しました!

 

参考資料・文献等

  1. 厚生労働省委託事業「血液凝異常症全国調査」平成27年度報告書
  2. Pathfinder 2(成人):Thromb Haemost. 2017 Jan 26;117(2):252-261.
  3. Pathfinder 5(小児):Thromb Haemost. 2017 Aug 30;117(9):1705-1713.

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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