2.循環器系

エントレスト(サクビトリルバルサルタン)の作用機序・特徴【心不全】

更新日:

2019年7月、「慢性心不全」を適応疾患とするエントレスト(サクビトリルバルサルタン)の製造販売承認申請が行われました。

現時点では未承認のためご注意ください。

基本情報

製品名エントレスト
一般名サクビトリルバルサルタンナトリウム
製品名の由来
製造販売ノバルティスファーマ(株)
効能・効果慢性心不全?
用法・用量1日2回経口投与?
収載時の薬価薬価未収載

 

エントレストは既に海外では承認・販売されていて、

  • ネプリライシン阻害薬のサクビトリル
  • ARBのバルサルタン

1:1で単結晶構造内に有している薬剤です。

 

木元 貴祥
非常に面白い構造と作用機序ですよ!

 

今回は心不全エントレスト(サクビトリルバルサルタン)の作用機序を解説します。

 

心臓と血液循環

ご存知の通り、心臓は大きく4つの部位(右心房・右心室・左心房・左心室)に分かれていて、通常、成人の心臓は以下の図のような流れで血液が循環しています。

 

  1. 右心房に血液が流入(大静脈)
  2. 右心室から肺に血液を送る(肺動脈)
  3. 肺で酸素を受け取る
  4. 左心房に血液が流入(肺静脈)
  5. 左心室から全身に血液を送る(大動脈)

 

このように心臓は血液を肺や全身に送る際のポンプとしての役割を担っています。

 

心不全の症状と分類

心臓の器質的もしくは機能的な障害によって、心臓のポンプ機能が低下して十分な血液を送り出すことができなくなった状態を「心不全」と呼んでいます。

 

その結果、肺や全身の静脈に血が溜まりうっ血による症状が主体となります。従って、心不全のことを「うっ血性心不全」と呼ぶこともあります。

用語解説静脈に血が溜まることを「うっ血」と呼びます。

 

心不全は進行速度や緊急性に応じて以下に分類されますが、薬物治療が関係するには慢性心不全ですので、今回は慢性心不全を中心に解説します。

  • 急性心不全:急激に進行し、治療に緊急性を要する
  • 慢性心不全:無症状状態が長期間続き、徐々に進行する

 

このような心不全の原因のほとんどは心室(左心室and/or右心室)の異常です。

 

木元 貴祥
様々な原因(心疾患、肺疾患、代謝異常、アルコール多飲、等)によって心室の機能が低下することで心不全を発症すると考えられています。

 

左心不全と症状

原因が左心室にあるものを左心不全と呼びます。

左心室から大動脈に血液を送りにくくなるため、大動脈血流量が低下し、

  • 低血圧
  • 冷汗
  • 乏尿(尿量の低下)
  • チアノーゼ

といった症状が現れます。

 

また、肺静脈からの血液が溜まってしまい、肺静脈うっ血を呈するため、

  • 労作時の息切れ
  • 呼吸困難

といった症状も現れます。

 

左心不全はそのまま放置しておくと、続いて右心不全が起こることもあると言われています(両心不全)。

 

右心不全と症状

原因が右心室にあるものを右心不全と呼びます。

右心室から肺動脈に血液を送りにくくなるため、肺動脈血流量が低下し、二酸化炭素と酸素の交換がうまくいかなくなります。

 

また、大静脈からの血液が溜まってしまい、大静脈うっ血を呈するため、

  • 浮腫
  • 腹水(腹部膨満感)

といった症状が現れます。

 

心不全の分類

多くの場合、左心不全(左心室機能障害)が関与していて、治療や評価も左心機能がどうかによって変わってきます。

従って、国内のガイドラインでは左室駆出率(LVEF)に応じた分類が行われています。1)

 

参考

  • 左室駆出率(LVEF:left ventricular ejection fraction)
    ⇒左心室の機能に関する指標。「(左室拡張末期容積-左室収縮末期容積)÷左室拡張末期容積」で計算する。

 

分類LVEF
LVEFの低下した心不全(HFrEF)40%未満
LVEFの保たれた心不全(HFpEF)50%以上
LVEFが軽度低下した心不全(HFmrEF)40%以上
50%未満
LVEFが改善した心不全(HFpEF improved)40%以上

略語解説

  • HFrEF:heart failure with reduced ejection fraction
  • HFpEF:heart failure with preserved ejection fraction
  • HFmrEF:heart failure with midrange ejection fraction
  • HFpEF improved:heart failure with preserved ejection fraction, improved

 

多くの場合はHFrEF(LVEFの低下した心不全)とHFpEF(LVEFの保たれた心不全)ですね。

 

今回ご紹介するエントレストはHFrEで臨床効果が認められていますが、HFpEFでは結果が出そろっていませんので不明です。

 

木元 貴祥
日本ではHFrEFのみになるのか、HFrEFとHFpEFを区別することなく適応となるのか、現時点では何とも言えません。ちなみに海外ではHFrEFのみですね。

 

心不全の治療

心不全の治療1)は、

  • HFrEF(LVEFの低下した心不全)
  • HFpEF(LVEFの保たれた心不全)

で分かれていますが、基本は体液量を減らしたり、血圧を低下させたりすることで心臓への負荷を軽減させます。

 

HFrEFの場合、

が最も推奨されていて、単剤もしくは適宜併用した治療が行われます。

 

代表的なMRAについては以下の記事で解説していますのでご参考にしてみてください。

ミネブロ(エサキセレノン)の作用機序・特徴:セララとの違い【高血圧】

続きを見る

 

一方、HFpEFの場合、体液量を減少させる利尿薬が最も推奨されていますが、状態に応じてACE阻害薬、ARB、β遮断薬、MRAも使用可能です。

 

利尿薬としてはいずれの場合にもループ利尿薬がよく用いられますが、ループ利尿薬で効果不十分な場合にはバソプレシンV2受容体拮抗薬も検討されます。

サムスカ(トルバプタン)の作用機序と副作用【心不全】

続きを見る

 

エントレスト(サクビトリルバルサルタン)の構造・作用機序・特徴

エントレスト(開発コード:LCZ696)は

  • サクビトリル:ネプリライシン阻害薬
  • バルサルタン:ARB

がモル比1:1で含まれる単結晶構造を有していて、ARNI(Angiotensin Receptor-Neprilysin Inhibitor)と呼ばれる新しいタイプの治療薬です。2)

読み方ARNI=「アーニィ」

 

木元 貴祥
エントレストは投与されると、速やかにサクビトリルとバルサルタンに分離されます。

 

生体内には利尿作用や血管拡張作用を有するホルモンとして「内因性ナトリウム利尿ペプチド(ANP、BNP、CNP)」が存在していますが、これはネプリライシンと呼ばれる酵素によって分解されてしまいます。

 

略語解説

  • ANP(atrial natriuretic peptide):心房性ナトリウム利尿ペプチド
  • BNP(brain natriuretic peptide):脳性ナトリウム利尿ペプチド
  • CNP(C type natriuretic peptide):C型ナトリウム利尿ペプチド

 

サクビトリルは体内で活性体(LBQ657)に変換され、ネプリライシンを阻害します。その結果、内因性ナトリウム利尿ペプチドの量が増加し、利尿作用や血管拡張作用によって体液量が減少して心負荷が軽減されると考えられます。

 

続いてバルサルタンについてです。

木元 貴祥
バルサルタン(製品名:ディオバン)は代表的なARBですよね。

 

ARBの作用機序やレニンーアンジオテンシン系のメカニズムについては一覧も掲載した記事がありますのでご参考ください。

【高血圧】ARB(アンジオテンシンⅡ受容体阻害薬)の作用機序と薬剤一覧の紹介

続きを見る

 

簡単に説明すると、アンジオテンシノーゲンからアンジオテンシンⅠ⇒アンジオテンシンⅡが合成されますが、これが血管のAT1受容体に作用することで血圧が上昇します。

 

ARBはアンジオテンシンⅡが作用するAT1受容体を遮断することで血管拡張作用・血圧低下作用を示す薬剤ですね!

ARBの作用機序

 

以上より、エントレストの作用機序をまとめると下図のようになります。

エントレスト(サクビトリルバルサルタン)の作用機序・特徴:ネプリライシン阻害とAT1受容体阻害

 

サクビトリルによるネプリライシン阻害作用と、バルサルタンによるAT1受容体遮断作用によって、体液量と血圧が低下することで心負荷を軽減し、心不全による症状・進行を抑制できると考えられます。

 

エビデンス紹介:PARADIGM-HF試験

根拠となった臨床試験をご紹介します。

 

PARADIGM-HF試験は、HFrEF(LVEFの低下した心不全)の患者さんを対象に、推奨される治療に加えて、エントレスト(1日2回投与)群と、ACE阻害薬のエナラプリル(1日2回投与)群を直接比較する第Ⅲ相臨床試験です。3)

対象患者さんは試験治療開始前にエナラプリルの2週間投与、次いでエントレストの4~6週投与による慣らし期間を設け、副作用等がないことを確認していました。

 

主要評価項目は「心血管死亡または心不全による入院」の複合アウトカムとされ、結果は下表の通りです。

試験群エントレスト群エナラプリル群
主要評価項目
(複合アウトカム)
21.8%26.5%
HR=0.80(95%CI:0.73-0.87)
P<0.001
心血管死亡割合13.3%16.5%
HR=0.80(95%CI:0.71-0.89)
P<0.001
心不全による入院割合12.8%15.6%
HR=0.79(95%CI:0.71-0.89)
P<0.001

 

このようにHFrEFにおいては、ACE阻害薬のエナラプリル(製品名:レニベース)と比較してエントレストで有意に死亡率や入院割合の低下が認められています。

 

一方、HFpEF(LVEFの保たれた心不全)では、日本を含む国際共同のPARAGON-HF試験が行われていますが、メーカーのニュースリリースによると有意差は認められなかったとされています。

ノバルティスファーマ|ニュースリリース(2019年8月7日)

 

木元 貴祥
PARAGON-HF試験の結果を受けて日本ではHFpEFの適応がどうなるのか、注視ですね!

 

副作用

正式承認後に更新予定です。

 

用法・用量

正式承認後に更新予定です。

前述の臨床試験では1日2回経口投与されていました。3)

 

薬価

現時点では未承認かつ薬価未収載です。

 

まとめ・あとがき

エントレストはこんな薬

  • ネプリライシン阻害薬のサクビトリルと、ARBのバルサルタンを組み合わせた薬剤
  • ネプリライシンを阻害することで内因性ナトリウム利尿ペプチドの分解を抑制
  • ARBによってAT1受容体を遮断
  • ARNIと呼ばれる新たな治療薬タイプ
  • HFrEF(LVEFの低下した心不全)において治療効果が期待される

 

木元 貴祥
エントレストは結晶構造内にサクビトリルとバルサルタンが1:1で含まれるといった面白い構造を有しています。(単なる合剤ではない)

 

ARNIは既に海外のガイドライン4)ではHFrEFの標準治療に位置づけられていますが、日本において今後どのような位置づけになるのかは、日本での正式承認後に検討が進むことと思います。

 

以上、今回は心不全(特に慢性心不全)とエントレスト(サクビトリルバルサルタン)の作用機序・特徴、そしてエビデンスについてご紹介しました!

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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