1.中枢神経系

レキサルティ(ブレクスピプラゾール)の作用機序【統合失調症/うつ病】

2023年12月22日レキサルティ(ブレクスピプラゾール)の効能・効果に「うつ病・うつ状態(既存治療で十分な効果が認められない場合に限る)」を追加することが承認されました!

大塚製薬|ニュースリリース

 

レキサルティ錠は、2018年1月19日に「統合失調症」を効能・効果として承認されました。その後、OD錠も承認されましたので、レキサルティ錠は2025年3月末に経過措置期間満了予定です(ニュースリリース)。

 

レキサルティ錠は、強いCYP3A4阻害剤・CYP2D6阻害剤等を併用している場合、「1回1mgを2日に1回」の投与とされていました。

OD錠は、新たに「1回0.5mgを1日1回」の投与も可能です(1回1mgを2日に1回も可)。

 

【OD錠の用法及び用量に関連する注意】

強いCYP2D6阻害剤又は強いCYP3A4阻害剤のいずれかを併用

1回1mgを1日1回

CYP2D6の活性が欠損していることが判明している患者

強いCYP2D6阻害剤及び強いCYP3A4阻害剤のいずれも併用

1回1mgを2日に1回又は
1回0.5mgを1日1回

CYP2D6の活性が欠損していることが判明している患者が
強いCYP3A4阻害剤を併用

 

木元 貴祥
連日投与の方がコンプライアンス良さそうですからね。本記事ではOD錠を中心に解説します。

 

レキサルティは「SDAM(Serotonin-Dopamine Activity Modulator)」という新規の作用機序を有する薬剤です。

 

今回は、統合失調症・うつ病とその治療薬、そしてレキサルティ(ブレクスピプラゾール)の作用機序についてご紹介します!

 

うつ病と症状

  • 仕事がうまくいかない
  • 学校の試験で悪い点を取ってしまった
  • 友人関係で喧嘩してしまった

ということで気分が落ち込んだり、やる気が起きないことは誰しもが経験したことがあると思います。

 

木元 貴祥
このような気分の落ち込みはごくごく一般的な感情の変化ですので、これだけでうつ病とは言いません。

 

ちょっとした気分の落ち込みであれば、飲み会や買い物、友人との遊びなどで吹き飛ぶこともありますし、時間の経過で次第に回復していきます。

 

しかしながら、「うつ病」では憂うつな状態が2週間以上も続き、例え原因となっていた問題が解決しても気分が晴れないことが多く、次第に日常生活に支障(仕事に行けない、学校に行けない、外に出たくない、等)をきたしてしまいます。

 

木元 貴祥
憂うつな状態が「2週間」、かつ「日常生活に支障」がうつ病の診断時のポイントです。もちろんこれ以外にも診断基準は多数あります。

 

また症状としては「身体症状」と「精神症状」があり、主には以下があります。

身体症状 食欲がない、体がだるい、疲れやすい、性欲がない、頭痛、肩こり、
動悸、胃の不快感、便秘がち、めまい、口が渇く、等
精神症状 憂うつ、気分が重い、気分が沈む、悲しい、不安、
イライラする、元気がない、集中力がない、
好きなこともやりたくない、等

 

うつ病の原因

脳内には「神経伝達物質」と呼ばれるものが存在しており、記憶や意欲、感情等をコントロールしています。

 

その中でも意欲・活力・気分などに関わっている神経伝達物質として「セロトニン」や「ノルアドレナリン」が知られていますが、うつ病ではこれら神経伝達物質の量が不足していると考えられています。

うつ病の原因:セロトニンとノルアドレナリンが不足している

 

治療

うつ病をそのまま放っておいてしまうと、悪化して治りにくくなり、その後の日常・社会生活に大きな悪影響を与えてしまう可能性があります。

従って、できるだけ早く治療を開始することが大切です。

 

うつ病の治療は、

  • 休養
  • 薬物治療
  • 精神療法

を中心に行われます。

 

木元 貴祥
特に、「休養」は最も重要で、家で何も考えずにゆっくりリフレッシュして過ごすことが大切です。

 

症状を抑えたり、再発を抑制したりする薬物治療にはいくつか薬の種類がありますが、中心となるのは以下のような「抗うつ薬」です。

 

今回ご紹介するレキサルティは、SNRIやSSRIによって効果不十分なうつ病に対して、既存薬に上乗せすることでうつ病の改善効果が認められています(国内第Ⅲ相試験)。

Psychiatry Clin Neurosci. 2023 Nov 7. doi: 10.1111/pcn.13615. Online ahead of print.

 

統合失調症とは

統合失調症は認知機能障害、思考障害、感情変化ときわめて情緒不安定なまたは緊張性の行動を特徴とする精神障害です。

 

症状としては「陽性症状」と「陰性症状」があります。

  1. 陽性症状:妄想や幻覚、等
  2. 陰性症状:感情表現が乏しい、意欲低下、情動の平板化、引きこもり、感情鈍麻性、快感消失、注意力欠陥、社会能力の欠乏、等

 

イメージとしては、陽性症状は「ないものがある」陰性症状は「あるべきものがない」といったところでしょうか。

 

発症年齢は、典型的には10代後半から20代前半であり、その原因は多面的で、遺伝的、環境的要因(ストレス等)の両方が関与するものと考えられています。

 

発症メカニズムと治療薬

統合失調症の陽性症状では、神経伝達物質の1つであるドパミン量が中脳辺縁系で過剰になっています。

これをドパミン仮説と呼び、統合失調症の治療においては、非常に長い歴史があるものでした。

ドパミンがドパミンD2受容体に作用することで陽性症状が発現するため、これを抑えるためにはドパミンD2受容体遮断薬(後述の“定型抗精神病薬”)を使用します。

 

一方、中脳辺縁系のドパミンが多くなっている陽性症状に比べて、陰性症状では逆に前頭前皮質のドパミン量が減っていることが知られています。

 

そのため、D2受容体遮断薬だけでは陰性症状まで改善することはできません。

ここで、D2受容体遮断薬に加えてセロトニンの作用を抑えれば陰性症状を改善できることが分かっています。

セロトニンとドパミンは拮抗の関係にありますので、セロトニンの作用を抑える(セロトニン受容体遮断)ことで、前頭前皮質のドパミン活性が高まり、その結果、陰性症状が改善すると言われています。

 

統合失調症治療薬の種類

統合失調症の治療の中心は薬物療法です。

治療薬には、「定型抗精神病薬」と「非定型抗精神病薬」の二種類があります。

 

定型抗精神病薬は主に脳内のドパミンD2受容体のみを遮断して陽性症状を改善する薬ですが、陰性症状は改善できません

また、D2受容体を強く遮断してしまうと、ドパミンによる刺激が極端に減少してしまい、副作用としてパーキンソン症候群が発現してしまいます。

これを「錐体外路障害」と呼んでいます。

 

ハロペリドールやクロルプロマジンが該当しますが、最近では陽性症状だけでなく陰性症状も改善する非定型抗精神病薬が良く使用されるため、定型抗精神病薬はあまり使用されていないと思います。

 

一方、非定型抗精神病薬は、比較的新しい薬で、作用の違いから「SDA系」「MARTA系」「DSS系」の3つに分類されており、こちらは陰性症状も改善することができます。

 

SDA系の作用機序(代表薬:リスパダール)

SDA(Serotonin-Dopamine Antagonist)は、脳内の神経伝達物質であるセロトニンドパミンの受容体両方遮断する薬です。

過剰に放出されているドパミンの作用を抑制して、陽性症状を改善します。

また、セロトニンの作用を抑制することで、前頭前皮質のドパミン分泌が高まり、陰性症状を改善する効果もあります。

 

リスパダール(一般名:リスペリドン)、ルーラン(一般名:ペロスピロン)、ロナセン(一般名:ブロナンセリン)等が該当します。

 

MARTA系の作用機序(代表薬:ジプレキサ)

MARTA(Multi-Acting Receptor Target Antipsychotics)は、セロトニンやドパミンだけでなく、様々な神経伝達物質の受容体(アドレナリン受容体、ヒスタミンH1受容体、ムスカリン受容体、等)に作用して、過剰な働きを遮断する薬です。

SDAと同じように前頭前皮質のドパミン分泌を活発化するため、陰性症状にも効果があります。

ジプレキサ(一般名:オラザピン)、セロクエル(一般名:クエチアピン)等が該当します。

 

DSS系の作用機序(代表薬:エビリファイ)

DSS(Dopamine System Stabilizer)は、ドパミンが過剰に働いているときは抑制し、少量しか放出されていないときは、刺激するように作用する薬で、部分作動薬(パーシャルアゴニスト)と呼ばれています。

パーシャルアゴニストは、受容体を完全に遮断するのではなく、部分的に刺激する作用があります。

 

D2受容体を完全に遮断してしまうと、錐体外路障害が発現してしまいますが、パーシャルアゴニストでは部分的にD2受容体を刺激するため、ほどよい感じでドパミンのバランスが保たれます

従って、ドパミンを正常な状態に近づけることが可能となりますので、陽性・陰性症状を共に改善することができます☆

また、錐体外路障害等の副作用が起きにくいのも特徴です。

 

エビリファイ(一般名:アリピプラゾール)が該当します。

エビリファイ(アリピプラゾール)の作用機序【統合失調症】

続きを見る

 

レキサルティ(ブレクスピプラゾール)の作用機序

レキサルティは、

  • ドパミンD2受容体とセロトニン5HT1A受容体に対するパーシャルアゴニスト
  • セロトニン5HT2A受容体に対するアンタゴニスト

として作用し、Serotonin-Dopamine Activity Modulator(SDAM)と呼ばれる新しい作用機序を有する薬剤です!

 

ドパミンD2受容体とセロトニン5HT1A受容体に対するパーシャルアゴニストによってドパミンを正常な状態に近づけることが可能となりますので、陽性・陰性症状を共に改善することができます☆

 

また、セロトニン5HT2A受容体遮断作用を示すため、陰性症状のさらなる改善も期待できます!

もちろん錐体外路障害も発現しにくいとされています。

 

このように、ドパミン受容体だけでなく、セロトニン受容体にもパーシャルアゴニストとして働き、副作用を軽減しながら正常な状態へ近づけるがレキサルティです☆

 

なお、セロトニン5HT1A受容体に対するパーシャルアゴニストは、抗うつ作用もあるため、うつ病に対しても効果が期待できます。

2020年に承認されたラツーダ(ルラシドン)もセロトニン5HT1A受容体に対するパーシャルアゴニスト作用によって、抗うつ作用を示します。

ラツーダ(ルラシドン)の作用機序・特徴【統合失調症/双極性障害】

続きを見る

 

副作用

レキサルティの主な副作用としては、下痢や嘔気、体重増加、頭痛、アカシジア(そわそわして、じっと落ち着いていられない状態)等があります。

 

エビリファイ(一般名:アリピプラゾール)との違い

ちなみにですが、レキサルティはエビリファイ(一般名:アリピプラゾール)を改良した薬剤とのことです。

レキサルティとエビリファイは構造上、ほとんど同じですが、エビリファイのジクロロフェニル基ベンゾチオフェンに変換されているといった違いがあります。

 

作用点はレキサルティもエビリファイも同様ですが作用の強さが少し異なります。

  • D2受容体パーシャルアゴニスト作用:レキサルティ<エビリファイ
  • 5HT1A受容体パーシャルアゴニスト作用:レキサルティ>エビリファイ
  • 5HT2A受容体アンタゴニスト作用:レキサルティ>エビリファイ

 

このように、ドパミン系(D2)はエビリファイの方が強く、セロトニン系(5HT)はレキサルティの方が強く作用するようです。

 

収載時の薬価

収載時(2018年4月18日)の薬価は以下の通りです。

  • 1mg 1錠:268.90円
  • 2mg 1錠:509.20円

 

OD錠は以下の通りです(2021年11月25日薬価収載)。

  • OD錠0.5mg:136.80円
  • OD錠1mg:260.60円
  • OD錠2mg:496.50円

 

レキサルティの特徴とあとがき

レキサルティは、臨床試験において、「うつ病」や「アルツハイマー型認知症」の改善効果も示唆されています。

 

現在の適応は「統合失調症」と「うつ病」のみですので、アルツハイマー型認知症には使用できません

2023年10月には「アルツハイマー型認知症に伴うアジテーション」に対しても適応拡大申請が行われています(ニュースリリース)。

 

今後はどういった患者さんに適切なのか、他剤との比較、等が検討されれば興味深いと感じます^^

以上、今回はレキサルティについてご紹介しました☆

 

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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