5.内分泌・骨・代謝系

ツイミーグ(イメグリミン)の作用機序・特徴【糖尿病】

2021年6月23日2型糖尿病を対象疾患とするツイミーグ(イメグリミン)が承認されました!

住友ファーマ|ニュースリリース

基本情報

製品名 ツイミーグ錠500mg
一般名 イメグリミン
製品名の由来 Dual を意味する"twin"と一般名の"imeglimin"から
製造販売 住友ファーマ(株)
効能・効果 2型糖尿病
用法・用量 通常、成人にはイメグリミン塩酸塩として1回1000mgを
1日2回朝、夕に経口投与する。
収載時の薬価 34.40円

 

ツイミーグはこれまでの糖尿病治療薬にはない「ミトコンドリア機能改善」という初の作用機序を有しています。

 

木元 貴祥
ユニークな作用機序ですので要チェックですね!

 

これまでの糖尿病治療薬は

  • インスリン分泌の促進
  • インスリン抵抗性の改善

のいずれかに作用するものでしたが、ツイミーグは上記を共に促進することが期待されています。

 

今回は糖尿病の疾患解説と共にツイミーグ(イメグリミン)の作用機序について解説していきます。

 

生体内の血糖調節システム

通常、生体内では以下のいくつかのホルモン等によって血糖が一定に保たれています。

血糖を上昇させる
生体内物質
  • グルカゴン
  • アドレナリン
  • ノルアドレナリン
  • コルチゾール
  • 成長ホルモン
血糖を下降させる
生体内物質
  • インスリン

 

このように、血糖を上昇させる物質は数種類存在していますが、血糖を下降する物質はインスリンしかありません。

 

インスリンの作用:糖の取り込み促進

インスリンは膵臓から分泌されるホルモンです。

分泌されたインスリンは、細胞(特に骨格筋細胞)に作用することで血中のブドウ糖を細胞内に取り込む働きがあります。

インスリンの働き

 

木元 貴祥
この働きによって、血中のブドウ糖を下げる(血糖値の降下)作用を発揮します。

 

糖尿病とは

平成29年の厚労省調査(3年に1度)によると、糖尿病の総患者数は約328万人超であり、前回の調査から12万人以上増加しています。

厚生労働省平成29年(2017)患者調査の概況

 

糖尿病はその名の通り、血中ブドウ糖濃度が高い状態が慢性的に継続している病態です。

 

健康診断等で

  • 空腹時血糖値が126mg/dL以上
  • HbA1cが6.5%以上

の場合に疑われ、数回の検査を経て確定診断されます。

 

糖尿病にはその原因や病態によって

  • 1型糖尿病
  • 2型糖尿病

に分類されています。

 

日本人では約95%が「2型糖尿病」に分類されており、遺伝因子と食生活・運動不足・肥満等の生活習慣が原因で、以下の理由で引き起こされると考えられています。

  • インスリンの分泌低下:インスリン量が減っている
  • インスリンの抵抗性増大:インスリンの効きが悪くなっている

2型糖尿病の発症要因

 

主にはインスリンの抵抗性増大によると考えられています。(インスリン分泌低下は軽度~中等度と様々)

 

 

一方、1型糖尿病遺伝因子自己免疫等によって、インスリンを分泌する膵臓のβ細胞が欠損・破壊されている状態です。(インスリンの分泌低下

従って、一型糖尿病の治療の基本はインスリンの補充療法です。

 

木元 貴祥
1型・2型、いずれも遺伝因子が関与していますが、その関与の程度は1型糖尿病の方が強いと言われています。

 

2型糖尿病の治療

2型糖尿病治療は

  • 食事療法
  • 運動療法
  • 薬物療法

を基本としますが、最も大切なのは食事療法運動療法です。1)

 

食事/運動療法を2~3カ月続けても血糖値が下がらない場合、薬物療法が開始されます。

 

2型糖尿病治療薬

2型糖尿病治療薬にはいくつかの種類があり、年齢や肥満の程度、合併症、肝・腎機能等によって使い分けられます。

まずは経口血糖降下薬の少量から開始されることが多いです。1)

 

経口血糖降下薬には以下の種類があり、糖尿病の原因(インスリン分泌低下、抵抗性増大)によって使い分けられます。

 

<インスリン分泌低下を改善>

  • スルホニル尿素(SU)薬:インスリン分泌促進
  • グリニド薬:より速やかなインスリン分泌促進
  • DPP-4阻害薬:GLP-1分解抑制によるインスリン分泌促進とグルカゴン分泌抑制
【糖尿病】DPP-4阻害薬の作用機序と一覧まとめ(単剤と配合剤)

続きを見る

 

<インスリン抵抗性を改善>

  • ビグアナイド薬:糖新生の抑制
  • チアゾリジン薬:インスリンの感受性を向上

 

加えて、ブドウ糖の吸収を抑制する「α-グルコシダーゼ阻害薬」や、ブドウ糖の排泄を促進する「SGLT2阻害薬」等も使用されます。

【糖尿病】SGLT2阻害薬の作用機序・副作用と一覧まとめ(単剤と配合剤)

続きを見る

 

これら経口血糖降下薬を使用しても血糖値が下がらない場合、経口薬の増量や併用、そして注射剤(GLP-1受容体作動薬、インスリン製剤)の使用が検討されます。

【糖尿病】GLP-1受容体作動薬の作用機序と一覧まとめ

続きを見る

 

また、最近では経口血糖降下薬でコントロール不十分な場合、BOTBPTと呼ばれれる治療が行われることもあります。

  • 持続型インスリン製剤+経口血糖降下薬:BOT(Basal Supported Oral Therapy)
  • 持続型インスリン製剤+GLP-1受容体作動薬:BPT(Basal supported post Prandial GLP-1 therapy)2)
ゾルトファイ配合注(インスリンデグルデク/リラグルチド)の作用機序【糖尿病】

続きを見る

 

上記にお示しした薬剤(特に経口の治療薬)は

  • インスリン分泌の促進
  • インスリン抵抗性の改善

のいずれかに作用するものでしたが、ツイミーグは上記を共に促進することが期待されています。

 

ツイミーグ(イメグリミン)の作用機序:ミトコンドリア機能改善

私達の細胞にはミトコンドリアと呼ばれる細胞小器官が存在していて、主な働きとしては「ATPの合成ですね。

 

医療系の皆様なら馴染み深い、好気呼吸におけるクエン酸回路で大量のATPを産生することができます。

 

実はミトコンドリアはATP合成だけでなく、生体内の様々な機能に関与していることも知られていて、糖尿病の発症(インスリンの抵抗性)やミトコンドリア病の発症にも寄与していると考えられています。

タウリン散の作用機序【MELAS(ミトコンドリア病)】

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ツイミーグが投与されると、2型糖尿病の発症に関与している「膵臓・肝臓・骨格筋」のミトコンドリアに作用して、

  • インスリンの分泌促進
  • インスリン抵抗性の改善
  • 糖新生の抑制

といった効果を発揮すると考えられています。3)

 

木元 貴祥
図にまとめるとこんな感じでしょうか。

ツイミーグ(イメグリミン)の作用機序:ミトコンドリア機能改善

 

膵臓においてはインスリン分泌促進の他、インスリンを分泌するβ細胞の保護作用や数の増加作用もあります。

また、肝臓や骨格筋ではインスリンの感受性が亢進しますし、糖新生も抑制してくれますので血糖値の上昇抑制作用もありますね。

作用臓器 主な作用
膵臓
  • インスリン分泌促進
  • β細胞の保護作用
  • β細胞数の増加
肝臓
  • 糖新生の抑制
  • インスリン感受性亢進
  • 脂肪肝の抑制
骨格筋
  • インスリン感受性亢進
  • 糖取り込み促進

 

木元 貴祥
何かとりあえずミトコンドリアに色々作用して血糖値を下げる!って印象です(笑)

 

エビデンス紹介:TIMES試験

根拠となったのは日本で行われたTIMES試験で、以下の3つの試験があります。いずれも2型糖尿病の患者さんが対象です。

  • TIMES1試験4):ツイミーグ単剤とプラセボを比較(24週間)
  • TIMES2試験5):ツイミーグ単剤と既存薬(DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬、ビグアナイド薬、SU薬、グリニド薬、α-GI薬、チアゾリジン薬、GLP-1受容体作動薬)との併用を比較(52週)
  • TIMES3試験6):インスリン製剤とツイミーグの比較(プラセボ対照)

 

代表としてTIMES1試験をご紹介します。4)

本試験は食事・運動療法以外の2型糖尿病治療経験がないまたは他の経口血糖降下薬の単独療法を12週間以上受けている2型糖尿病患者さんを対象に、プラセボとツイミーグを比較した国内第Ⅲ相試験です(いずれも24週間投与)。

主要評価項目は「HbA1cのベースラインからの変化量」とされ、結果は以下の通りでした。

試験群 プラセボ ツイミーグ
HbA1cのベースラインからの変化量 0.15±0.07% −0.72±0.07%
差:−0.87±0.09
p<0.0001

 

TIMES2試験・TIMES3試験でも各薬剤との併用においてHbA1cの低下が認められていますよ!

 

副作用

1~5%未満に認められる副作用として、悪心、下痢、便秘などが報告されています。

重大な副作用としては、

  • 低血糖(6.7%)

が挙げられていますので特に注意が必要です。

 

木元 貴祥
低血糖は、インスリン製剤、スルホニルウレア剤、速効型インスリン分泌促進薬と併用した場合に発現しやすいとのこと。

 

用法・用量

通常、成人にはイメグリミン塩酸塩として1回1000mgを1日2回朝、夕に経口投与します。

 

収載時の薬価

収載時(2021年8月12日)の薬価は以下の通りです。

  • ツイミーグ錠500mg:34.40円

 

算定根拠等については以下をご確認ください。

【新薬:薬価収載】15製品+再生医療等製品(2021年8月12日)

続きを見る

 

まとめ・あとがき

ツイミーグはこんな薬

  • ミトコンドリアの機能改善によって血糖値を降下させる
  • 膵臓のインスリン分泌促進、肝臓の糖新生抑制、骨格筋のインスリン感受性亢進と糖取り込み促進

 

今後、糖尿病治療のどの位置で使用されるのか、検討が進んでいくと思われます!

 

TIMES2試験では色々な経口糖尿病薬との併用試験の結果もありますので、まずは既存薬で効果が得られない場合の2剤目以降の併用薬として使用されていくのではないでしょうか。

 

木元 貴祥
検討が進めば初回から単剤での使用ということもありそうですね。

 

糖尿病治療薬関連の以下のまとめ記事もありますので是非ご覧くださいませ☆

 

引用文献・資料等

  1. 日本糖尿病学会|糖尿病治療ガイド
  2. Pharm Med 2014; 32: 101-11
  3. Diabetes. 2015 Jun;64(6):2254-64.
  4. TIMES1試験:Diabetes Care. 2021 Apr;44(4):952-959.
  5. TIMES2試験:Diabetes Obes Metab. 2022 Apr;24(4):609-619. 
  6. TIMES3試験:Diabetes Obes Metab. 2022 May;24(5):838-848.

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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