2020年12月21日、厚労省の薬食審医薬品第二部会にて、アビガン錠(ファビピラビル)の「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」を対象疾患とする適応拡大について審議されましたが、残念ながら次回以降の継続審議となりました。
富士フイルム富山化学|申請のニュースリリース
- 審議結果
現時点で得られたデータから、本剤の有効性を明確に判断することは困難であり、現在実施中の臨床試験結果等の早期の提出を待って、再審議(継続審議) - 主な議論
・「単盲検試験」で実施されたことによる影響の評価。
・主要評価項目以外も含めた各評価項目における結果の臨床的意義。 - 今後の予定
企業から追加のデータが提出されれば、当該データに関する審査を PMDA で行い、改めて薬事・食品衛生審議会で審議する予定。
その後、2022年10月14日には新型コロナウイルス感染症を対象とした開発が中止されています。
富士フイルム富山化学|中止のニュースリリース
アビガンは新型コロナウイルス感染症の適応外のためご注意ください。
アビガンは、2014年3月24日に
- 「新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症(ただし、他の抗インフルエンザウイルス薬が無効又は効果不十分のものに限る。)」
を効能・効果として承認されています。
当初、アビガンはこれまでのインフルエンザ治療薬と異なる作用機序を有している薬剤で注目されていましたが、非臨床試験で胎児への催奇形性が確認されたために、インフルエンザに対しては「緊急事態のみ」にしか使用できません。
新型コロナウイルス治療薬として期待され、臨床試験を通じて2020年10月16日に承認申請が行われましたが、残念ながら効果は認められず、開発中止となりました。
今回は新型コロナウイルスの感染・増殖メカニズムとアビガン(ファビピラビル)の作用機序、そしてベクルリーとの違いについてご紹介します。
インフルエンザウイルスについてはゾフルーザの記事でアビガンについても紹介していますので、そちらをご参考くださいませ~。
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目次(クリック可)
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とは
2019年末頃、中国の中国湖北省武漢市を中心に原因不明の肺炎ウイルスが発生しました。
その後、数カ月で日本を含む全世界にパンデミックを引き起こした原因ウイルスが「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)」です。このウイルスによって引き起こされる疾患名として、世界保健機関(WHO) は正式名称を「COVID-19(新型コロナウイルス感染症)」と発表しました。
「COVID-19」の読み方:コヴィッド・ナインティーン
SARS(Severe acute respiratory syndrome coronavirus:重症急性呼吸器症候群)と言えば、2003年頃に中国を中心に流行したウイルス感染症で、この原因もコロナウイルス(SARS-CoV)でしたね。今回の新型コロナウイルスもSARS-CoVと似ていることからSARS-CoV-2と名付けられています。
症状としては無症状から風邪様症状(発熱、倦怠感、咳、味覚異常)が多く、重症化することはあまりありません。
しかし、一部、肺炎・呼吸困難・血栓症等、重症化することもあり、特に高齢者や基礎疾患(例:糖尿病、心不全、COPD等の呼吸器疾患)を持っている方では重症化のリスクが高いと言われています。
重症化の可能性や世界的なパンデミックにより、日本においてCOVID-19は2020年1月に感染症法に基づく「指定感染症」及び検疫法に基づく「検疫感染症」に指定されました。
【参考】内閣官房|新型コロナウイルス感染症の指定感染症等への指定について
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の増殖メカニズム
コロナウイルスの外観は「コロナ(太陽の光冠)」に似ていることからその名前が付けられています。
分類としては「一本鎖プラス鎖RNAウイルス」で、RNAをゲノムとしているウイルスですね!主にヒトの粘膜上皮細胞に感染します。
- 二本鎖DNAウイルス:アデノウイルス、パピローマウイルス、ヘルペスウイルス
- 一本鎖DNAウイルス:アデノ随伴ウイルス
- 二本鎖RNAウイルス:ロタウイルス
- 一本鎖プラス鎖RNAウイルス:コロナウイルス、エンテロウイルス、C型肝炎ウイルス、ノロウイルス
- 一本鎖マイナス鎖RNAウイルス:麻疹ウイルス、RSウイルス、エボラウイルス、インフルエンザウイルス
- 一本鎖RNA逆転写ウイルス:ヒト免疫不全ウイルス(HIV)
- 二本鎖DNA逆転写ウイルス:B型肝炎ウイルス
ちなみに、アデノ随伴ウイルスの仕組みを用いた治療法なんかもありますね。
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プラス鎖というのはゲノムそのものがmRNAとして働くことが可能なもの、マイナス鎖というのはゲノムを鋳型として一旦mRNAを作るものを言います。
SARS-CoV-2はプラス鎖の一本鎖RNAウイルスですので、ゲノム自体がmRNAとして働き、ヒト細胞内に侵入するとすぐにウイルスタンパク質の合成が始まりますね。
SARS-CoV-2がヒトの粘膜上皮細胞に感染する場合、以下の図のようなプロセスで感染・増殖します。
- 吸着・膜融合・脱殻:ヒト細胞内に入る
- ゲノム(RNA)の複製とタンパク質合成:ヒト細胞内で増える
- 細胞からの遊離:ヒト細胞外へ出て、他の細胞に感染する
上記②のRNAの複製過程では、「RNA依存性RNAポリメラーゼ(別名:レプリカーゼ)」と呼ばれるウイルスタンパク質が中心を担っています。
ちなみに、mRNAワクチンは2021年に承認されていますね。
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アビガン(ファビピラビル)の作用機序:RNAポリメラーゼ阻害
アビガンはRNA依存性RNAポリメラーゼを選択的に阻害するといった作用機序を有しています!2)
ウイルスのゲノム(RNA)の複製がストップすることでヒト細胞内で増殖することができなくなり、結果としてウイルスの増殖抑制効果を発揮すると考えられていますね。
インフルエンザウイルスもRNAポリメラーゼによって「RNA複製」と「mRNAの伸長」が行われていますので、同じ作用機序で効果を発揮すると考えられていますね。
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また、COVID-19に対しては既にいくつかの薬剤が登場してきています。
副作用:催奇形性に注意
アビガンはインフルエンザウイルス治療薬としては現時点で有効性のエビデンスが限られていることや、非臨床試験では催奇形性が確認されているため、以下のような制限などがあります。
- 追加臨床試験の実施
- パンデミック発生まで一般に流通させない
- 妊婦や妊娠の可能性のある女性への投与回避や投与中と投与後7日間避妊措置を行う安全対策
従って、「緊急事態」と国が認めた場合に限って使用が許可される薬剤です。
本剤は、他の抗インフルエンザウイルス薬が無効又は効果不十分な新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症が発生し、本剤を当該インフルエンザウイルスへの対策に使用すると国が判断した場合にのみ、患者への投与が検討される医薬品である。
まとめ・あとがき
アビガンはこんな薬
- 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して期待されていたが、開発中止(適応外)
- インフルエンザウイルスに対しては緊急事態のみと限定付き
- RNA依存性RNAポリメラーゼを選択的に阻害することでウイルスの増殖を抑制する
- 催奇形性には注意が必要
ちなみに、COVID-19に対しては、目標症例数316例とした国内臨床第Ⅲ相試験が行われていましたが、症例が集積できずに84例で組み入れがストップされました。
その後、84例で得られたデータの解析では、有意な結果が得られていないことを確認したため、今回の開発中止に至ったとのことです。
以上、今回は新型コロナウイルス治療薬として期待されていたものの、残念ながら開発中止となったアビガン(ファビピラビル)の作用機序について解説しました。
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